閉じる

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや導入の注意点を紹介

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや導入の注意点を紹介

人材育成の手法として、ジョブローテーションという制度があります。同じ環境にいるだけでは得られるスキルや経験に偏りが生じますが、環境を変え、いろいろな業務を経験することで成長を促すことができます。本記事ではジョブローテーションの基本知識やメリット・デメリット、やり方を紹介します。

ジョブローテーションとは?

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや導入の注意点を紹介_1

ジョブローテーションとは、入社2~3年目の社員を対象に、人材育成を目的として定期的に所属部署の異動をおこなう制度です。2~3ヶ所の異動の後に、本人の要望を配慮したうえで正式な配属部署を決定するのが一般的です。部門内で複数の異なる職種をローテーションさせる場合もあります。

5割以上の企業がジョブローテーションを実施


2017年に実施された「企業の転勤の実態に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)によると、全国の300人以上の企業10,000社を調査した結果、ジョブローテーションを実施している企業は53.1%、1,000人以上の企業では70.3%に達していました。また、企業の規模が大きくなるほど、実施する割合が高くなっています。異動の頻度は「3年」が 27.9%ともっとも高く、次いで「5年」が 18.8%となっていました。

ジョブローテーションの目的


ジョブローテーションは、長期雇用を前提として万能型のゼネラリストを育てるために生まれた制度です。複数の部署を経験すること広範な知識やスキル、人脈などを獲得し、将来の幹部となることが期待されます。あるいは、新卒社員や若手社員の適性を見極めるために実施されます。

ただし、近年は専門職に特化したジョブ型雇用が注目されるなど、年功序列や終身雇用、新卒一括採用に代表される日本型の雇用形態の是非が問われるようになっています。

人事異動との違いは?


人事異動とジョブローテーションは、目的が違います。人事異動は、部門や部署の活性化、欠員の補充など、経営戦略の観点から実施されます。昇格・降格が目的となる場合もあります。ジョブローテーションの目的は、人材育成や能力開発です。人事戦略にもとづき、社員教育や成長促進のために実施されます。

企業側|ジョブローテーションのメリット・デメリット

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや導入の注意点を紹介_2

ジョブローテーションはあらゆる企業・職種に適している制度ではありません。メリット・デメリットを理解したうえで、適切に運用する必要があります。

企業側|ジョブローテーションのメリット


・社員の成長を促せる
業務が固定化すると、社員の視野が狭くなる傾向があります。複数の部署や職種を経験させることで、幅広い視野や視座が形成でき、会社に対する理解が深まる可能性もあります。また、複数の部署の社員とコミュニケーションを深めることで人脈を広げ、社員の成長が期待できるでしょう。

・適性を見極め、最適な人材配置ができる
企業の成長のためには、適材適所の配置が重要になります。複数の部署や職種を経験させることで、新入社員のスキル・能力、強み・弱みなどを見極め、適性に応じた最適な人材配置がしやすくなります。また、異動後も部署を超えた協力体制が築きやすくなるでしょう。

・業務の属人化を防げる
同じ社員が同じ業務を長く担当していると、業務内容や進め方が当人以外にはわからない属人化・ブラックボックス化が生じやすくなります。定期的に異動を実施することで、これらを防ぐことができます。 

・社員の価値観が広がることによるイノベーションが期待できる
同じ部署で同じメンバーとだけ接していると、思考や知識、経験に偏りができやすくなります。複数の部署や職種を経験し、さまざまなメンバーと交流することで価値観が広がり、イノベーションが生まれやすくなります。社内の風通しもよくなり、組織の多様性や活性化にもつながるでしょう。

企業側|ジョブローテーションのデメリット


・人材教育コストの増加
人材育成を目的としたジョブローテーションは、教育担当やメンターを任命しサポート体制を固めることが必要です。そのため、異動のたびに人材教育コストが発生します。その都度、新しい業務に取り組むことになるため、異動した直後はパフォーマンスも低下しやすく、生産性低下などのリスクも考えられます。

・特定のスキルだけを伸ばす育成には不向き
ジョブローテーションは、さまざまな業務や部署を経験させて将来の幹部を育てたり、新入社員の適性を見極めたりする制度です。幅広い知識や経験が求められる「ゼネラリスト」の育成に適していますが、特定分野の深い知識やスキルが求められる「スペシャリスト」の育成には向いていないかもしれません。

社員側|ジョブローテーションのメリット・デメリット

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや導入の注意点を紹介_3

次に、社員側のメリット・デメリットを整理しましょう。

社員側|ジョブローテーションのメリット


・常に成長する機会に身を置ける
複数の部署や業務を経験すると、新しい刺激を受けやすく、モチベーションアップがしやすくなります。また、事業の全体像や部署間の関わり方も理解しやすくなり、成長する機会も多くなるでしょう。

・自身の適性を見極められる
自身の志向と適性は、必ずしも一致しているとは限りません。特に新入社員の場合は、自身の適性を把握できていないことがほとんどです。複数の職種を経験することで、実務を通じて自身の適性を見極められます。意外な強みを発見できることも多く、将来のキャリアプランが描きやすくなります。

・さまざまな分野で人脈を広げられる
複数の部署や業務を経験し、コミュニケーションを深めることで、社内の人間関係はもちろん、顧客や関係者など、社内外の人的ネットワークが大きく広がります。幹部候補の場合、幅広い人脈の形成は特に重要になります。

社員側|ジョブローテーションのデメリット


・仕事で必要なスキルの幅が増えることで負荷が上がる
ジョブローテーションは、違う部署に異動するたびに求められるスキルが変わります。仕事で必要なスキルの幅が増えることで負荷が上がり、本人が希望しない職種や部署、あるいは目的が曖昧な異動だった場合は、離職のリスクが高まります。

・同じ環境で落ち着くことができない
ジョブローテーションは、ひとつの部署でスキルを身に付け、人間関係にも馴染んだところで異動になるため、同じ環境で落ち着くことができません。長期的なキャリアパスを描けず、将来への不安、会社への不信感を抱きやすくなる場合があります。

・専門性の高いスキルを身に付けるには不向き
ジョブローテーションは、スペシャリスト志向の社員には不向きかもしれません。異動が頻繁にあると、ひとつの業務に集中してスキルを高めることができません。本人の志向や適性に配慮しないと離職の要因になるケースもあります。

ジョブローテーションに向いているのはこんな企業

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや導入の注意点を紹介_4

ジョブローテーションは、向いている企業と向いていない企業があります。自社の傾向や特徴を把握したうえで、後述の導入方法を確認してみましょう。

複数の業務が連携している形態の企業


製造業のように部門ごとの業務の連携性が高い企業は、ジョブローテーションに向いているといえるでしょう。業務の前後の工程を経験することで、作業全体の流れが理解しやすくなります。また、ひとつの事業に対して研究部門・製造部門・営業部門など、複数の部署が密接に関連している場合は、部門を超えた人間関係やコミュニケーションが必要です。ジョブローテーションで人脈を築けば業務を円滑に進めやすくなるでしょう。

知識幅が広がるほど業務効率が上がる企業


商社や金融、サービス業のように同一の職種であっても部門ごとに顧客や業務が異なる企業があります。たとえば、同じ営業職でも「小売担当→ソフトウェア担当→→金融担当」と異なる業界を担当することでスキルアップしやすくなります。他部署の業務も知ることで、柔軟な発想や的確な判断もしやすくなります。知識幅が広がるほど業務効率が上がる企業は、ジョブローテーションに向いています。

企業文化を社内全体に浸透させたい企業


企業文化とは、その企業における「行動原理となる価値観」です。個人主義かチームワーク重視か。成長志向か安定志向か。年功序列か成果主義か。トップダウンかボトムアップか。企業文化は会社によって異なりますが、社内で統一をはかることが重要です。支店や支社が多い企業、M&Aで異なる会社がひとつになった企業など、企業文化を社内全体に浸透させたい企業は、ジョブローテーションが向いているといえるでしょう。

人材育成にコストを注げる企業


ジョブローテーションは未経験の業務を経験させるための制度のため、教育担当をつける必要があり、教育コストが発生します。お金と時間をかけて教育しても、ジョブローテーション実施後に離職してしまう場合もあります。ジョブローテーションは、新卒一括採用などをおこなっている、人材育成にコストを注げる企業が向いているといえそうです。

ジョブローテーションのやり方

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや導入の注意点を紹介_5

ジョブローテーションを実施する際は、社員のキャリアプランを配慮することが重要なポイントです。詳しく見ていきましょう。

社員のキャリアプランを配慮する


社員には、それぞれ異なるキャリアプランやライフプランがあります。自社でトップを目指すゼネラリスト志向の社員もいれば、専門分野におけるキャリアアップを目指すスペシャリスト志向の社員もいます。後者の社員は、ジョブローテーションを回り道と考え、離職してしまうケースも少なくありません。

上司と部下で話し合い、本人のキャリアプランやライフプランをしっかり把握することが必要です。その社員は3年後、5年後にどうなりたいと思っているのか、何を目指しているのか。キャリア上の目標や悩みを聞き、適切な助言をすることが重要です。そのうえで会社が求めるキャリアプランと本人が望むキャリアプランをマッチさせ、技術・知識の向上につながるジョブローテーションの計画を立てます。

ジョブローテーションの導入方法


・対象になる社員と部署を決定する
本人のキャリア志向、強み・弱み、課題、性格などを分析したうえで、対象となる社員と部署を決定します。ジョブローテーションは、教育係やメンターなどのサポート体制を整えておくことが必要です。受け入れ先の部署とも話し合い、指導ができる人的・時間的余裕があることを確認しておくことも重要です。

・目的や達成目標を伝える
対象となる社員と部署に、ジョブローテーションの目的や達成目標を明確に伝えます。ジョブローテーションの目的は、社員教育や成長促進、適性の見極めです。目標が不透明になっていると社員のモチベーションが低下し、受け入れ先の部署からも不満が出やすくなります。この時期に異動する意味や目的、達成目標、期間の目処、今後のキャリアプランにおける位置づけなども伝え、両者の納得感を熟成します。

ジョブローテーションの頻度・期間


ジョブローテーションの期間は企業や職種によってさまざまですが、短期間で6ヶ月以内、長期間だと2~5年で異動になるのが一般的です。あまりにも頻度が多く、期間が短すぎると、スキルや知識の習得が十分にできません。対象部署で学ぶべきことに応じて期間を設定したほうがいいでしょう。

幹部候補の育成が目的なら、各部署の業務を深く理解し、他部署との関係性の構築や人脈の形成が重要になるので、頻度は少なく、期間は長めに設定したほうが目的を達成しやすくなります。ただし、新入社員の適性を見極めることが目的であれば、短期間に多くの職種や部署を経験させる方法も効果的です。

ジョブローテーションの目的によって、適切な頻度や期間は異なります。本制度によって達成したい目標や社員のキャリアプランなどを考慮して、最適な期間の設定をおすすめします。

まとめ

ジョブローテーションは、新卒社員の適性の見極め、若手の育成、幹部候補の視野や視座の形成などには有効な人事制度です。新卒一括採用をおこなっている企業や、終身雇用を前提としている企業、部署間の連携が重要な企業、企業文化の浸透が必要な企業には適している制度といるでしょう。

一方で、専門的なスキルは高まりにくく、スペシャリストの育成には向いてない制度でもあります。人材育成コストも必要になるため、即戦力を求める企業も向いていません。
ジョブローテーションは、導入が向いている企業とそうでない企業があります。ご自身の会社でプラス効果を得られるか、十分に検討したうえでの導入をおすすめします。


《ライタープロフィール》
ライター:鈴木にこ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。