閉じる

民法改正により賠償額の上限額が必須に。身元保証書の意味と必要性を考える

民法改正により賠償額の上限額が必須に。身元保証書の意味と必要性を考える

社員が新たに入社するとき、雇用契約書に加え、身元保証書の提出を求める企業があります。身元保証書は提出が義務づけられておらず、法的な制限は発生しないものの、雇用側が必要だと判断した場合には要求することが可能となっています。

この身元保証書には、雇用側が知っておくべき役割があり、採用後のトラブル防止にも有効です。さらに2020年4月の民法改正により、身元保証書の取り決めにも大きな変更点が生じています。「内容は理解していないが、ひとまず身元保証書は提出させよう」と思っていても、変更点を反映させていなければ、身元保証書が無効になってしまうことが考えられます。

今回は、身元保証書の役割や約120年ぶりの民法改正で変更された取り決め、活用するシーンについて解説します。

身元保証書とは

民法改正により賠償額の上限額が必須に。身元保証書の意味と必要性を考える_1
身元保証書とは、社員の身元を保証する「身元保証人」を設定することで、社員が故意または過失によって何かしらの理由で企業に損害を与えたとき、第三者である身元保証人が本人とともに賠償することを明記した書類です。

企業が被る損害の例としては、「企業の備品を紛失してしまった」「企業が管理している顧客の個人情報を漏洩させてしまった」「会社の資金を横領していた」などが挙げられます。このような損害が起きた際、身元保証書があれば企業は身元保証人に対して賠償を求めることができます。

「身元保証に関する法律」では、企業への賠償を約束するためのものとされていますが、同時に「きちんと従事できる人間だという証明」という意味合いも持っています。

なお、身元保証契約は一般的に3年間、最長で5年間が有効期間となっています。書面で5年以上の有効期限を定めている場合でも、法律違反と判断されるため、契約更新をする必要があります。

しかし、契約期間中にトラブルが起こらなかったり、勤務態度に問題がなければ契約更新をしないケースも見られます。身元保証書の更新を求めるのであれば、就業規則などで「会社が必要と認めた場合、身元保証の期間延長を求めることがある。延長する場合は、新たに身元保証書を提出しなければならない。」旨を定めておくことを検討しても良いでしょう。

身元保証人はどのような人物が望ましいのか


身元保証書には、本人以外の人物、“身元保証人”の賠償責任についても含まれています。万が一不測の事態が起こった場合、本人だけでなく身元保証人にも責任が及ぶために注意しようとする意識が芽生えるといった効果も期待できるとされています。身元保証人と社員の間には信頼関係があるからこそ、不正を起こして身元保証人の信頼を裏切る行為にいたる可能性は低くなると考えられます。

なお、身元保証人は、両親や兄弟姉妹、配偶者や親戚といった身内のほか、独立して生計を立てている成人であれば、友人・知人も可能です。一般的に身元保証人は2名、「1人は親族、もう1人は独立して生計を立てている人」というような形で求められる傾向にあります。ただし、年齢によっては死亡、退職により身元保証人としての責務を果たすのが難しくなることも考えられるため、契約更新を求めても良いでしょう。

また企業は、社員に業務上不適任や不誠実な事柄があった場合や社員の任務や任地に変更があった場合、遅滞なく身元保証人に通知する義務があります(身元保証ニ関スル法律第3条)。これらの通知をしていなかった場合は、身元保証人に損害額を賠償させられなくなる可能性があるため注意が必要です。

書き方での留意点


身元保証書の書式は法的に定められていませんが、最低でも雇用される人と身元保証人の住所・氏名・生年月日の記載と、印鑑の提出が求められます。さらに不測の事態があった場合に備え、「本人と連携して賠償の責任を負う」という記載も不可欠です。

身元保証人の署名は「遠方に在住しているため提出に間に合わない」という状況により、社員の代筆が可能です。しかし、その場合は架空の保証人を立てるという不正を防止するため、印鑑証明の添付を求めましょう。

民法改正で変わったこと

民法改正により賠償額の上限額が必須に。身元保証書の意味と必要性を考える_2

2020年4月の民法の改正により、身元保証契約の際に賠償額の上限を決めることが義務付けられました。改正後、身元保証書に上限額が記載されていなければ、身元保証契約そのものが無効となります。(2020年4月1日以降に締結された契約についてのみ適用されるため、これ以前に取得した身元保証書については変更の必要はありません)

改正の背景には、上限の決められていない賠償額によって保証人が破産する可能性もあるため、不測の事態から保証人を守ろうとする動きがあります。

上限額は企業側で定めることが可能ですが、その金額設定については、十分な検討が求められます。企業側としてはある程度上限額が高ければ、不正を働く可能性が低くなるように思うかもしれません。しかし、あまりにも上限額を高く設定すると、身元保証人を見つけるのが困難になる恐れもあります。

一方で小額では契約の意味がなくなるほか、企業が被った損害を補填するのが難しくなるデメリットもあります。入社する社員の業種や業務により、適切な金額を示せるように注意しましょう。

身元保証書提出を断られたら

民法改正により賠償額の上限額が必須に。身元保証書の意味と必要性を考える_3

身元保証書の提出を求めたとき、損害賠償について触れていることから社員が提出を拒む可能性もあります。身元保証書は法的に提出義務がないため、提出を拒否することは可能です。

ただし、過去には身元保証書の提出を拒否し、解雇が有効となった判例もあります(シティズ事件/2003年12月16日東京地判)。この企業は金銭を扱うという理由から、横領などの事故を防ぐため、事前に身元保証書の提出を採用の条件としていました。裁判所は、身元保証書を提出しない社員に対し、「社員としての適格性に重大な疑義を抱かせる重大な服務規律違反又は背信行為」と判断し、解雇を有効としています。このように、企業側も就業規則に身元保証書の提出を求めていれば、採用取り消しとすることもできます。

そのため、企業は就業規則の中に「会社が必要とした書類を2週間以内に提出しないとき」などの「会社側が採用を取り消すことができる」条件を加えておけば、トラブルを未然に防ぐこともできるでしょう。

その他、「身元保証人が立てられない」という理由から社員が提出を断るケースもあります。「両親が亡くなっている」、「配偶者が専業主婦のために収入がない」「外国籍で国内に両親がいない」といった事情があり、社員が誰に依頼すればいいのか悩んでいれば、相談するように呼びかけておくのも重要です。

身元保証書が活用できるシーン

民法改正により賠償額の上限額が必須に。身元保証書の意味と必要性を考える_4

入社を控える社員にとって、「損害賠償」に触れている身元保証書は不安を抱くことも考えられます。しかし、損害賠償だけでなく、社員本人に不測の事態が起きた場合に活用できることについても説明しておくと良いでしょう。

たとえば社員が急病によって倒れ、連絡がつかない場合に連絡を取って自宅を訪れること、勤務の継続が困難になったときに本人の今後について話し合いの場に立ち会ってもらうことは、身元保証人がいなければできません。社員本人にとっても有効な活用方法もあるため、必ずしも損害賠償だけが目的でない旨を伝えておきましょう。

まとめ


提出義務がないことから、身元保証書の提出を求めない企業もあります。ただ、社員に不正をおこなわせない、けん制の意味合いもあるだけでなく、緊急連絡先を控えるためにも決して無駄なものとは言えません。

一方で、これまで「万が一の時に役立つかもしれない」といった認識で身元保証書を提出させていた場合でも、民法改正によりあらためて書類の形式を見直す必要は発生しています。今一度、身元保証書の役割を考え直しながら、今後の採用活動でのトラブルを防止するためにも書式を見直しましょう。