閉じる

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介

社員が入社するときに提出を求める書類のひとつに「身元保証書」があります。
身元保証書は、社員が企業に与えた損害を補償するほか、責任を自覚させることによる不正防止の抑止力、本人と連絡が取れなくなった際の緊急連絡先の確認など、さまざまな目的がある書類です。

本記事では、身元保証書の目的や、本人と身元保証人の関係、身元保証書の書き方や注意点、さらには入社時に身元保証人の提出を拒否された場合の対応などについて解説します。


ダウンロード用資料はこちらから
「身元保証書とは?民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介」

身元保証書とは

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介_1

身元保証書とは、企業が内定を受諾した社員に提出を求める書類のひとつです。身元保証書の提出は内定を受諾した社員の義務ではないため、提出しないことによる法的な責任は発生しません。しかし、雇用側が必要だと判断した場合には要求することが可能です。

身元保証書では、入社時に社員の身元を保証する「身元保証人」を設定します。万が一、社員が故意または過失によって企業に何らかの損害を与えたとき、第三者である身元保証人が本人とともに責任を負う契約を交わします。

本人(社員)と身元保証人の関係

・関係性
身元保証人は、両親、兄弟姉妹、配偶者や親戚といった身内がなるのが基本で、年齢は成人以上、年金受給者未満であることが条件になります。また、独立して生計を立てている(定期的に確実な収入がある)成人であれば、友人・知人でも問題ないとしているケースもあります。

・人数
身元保証人の数は、2名が一般的です。「1名は親族」「もう1名は独立して生計を立てている成人」といったルールを定めている企業が多くあります。

・注意点
身元保証人が損害賠償時に本人と生計を同一にしている場合、十分な金銭補償を得られない可能性があります。そのため「両親や配偶者、年金生活者、未成年を認めない」等の制限を設けている企業もあります。

また、身元保証人の退職、病気や死亡などによって、身元保証人としての責務を果たすことが難しくなる場合も考えられます。身元保証書の契約更新に関するルールを定めておくことも大切です。

企業に損害を与えた際の損害賠償

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介_2

身元保証書は、賠償金額が本人の支払い能力を超える場合、本人とともに身元保証人に賠償請求することができます。社員の故意または過失によって企業に損害を与え、それが労働契約に違反するものであった場合、「債務の不履行」にあたり、損害賠償請求が認められます(民法第415条)。

▼企業が被る被害例
・商品や備品の紛失・盗難
・資金の横領
・機密情報の流出
・個人情報の漏えい
・SNSへの誹謗(ひぼう)中傷の書き込み

ただし、2020年4月の民法改正によって、身元保証契約の際に賠償額の上限を決めることが企業に義務付けられました。身元保証書に上限額が記載されていなければ、身元保証契約そのものが無効となります(民法改正に至った背景については後述します)
2020年4月1日以降に締結された契約についてのみ適用されるため、これ以前に取得した身元保証書については変更の必要はありません。

2020年4月の民法改正により「身元保証契約の際に損害賠償額の上限」


■民法 第465条の2より

「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。」

つまり、「損害賠償額の上限」が設けられた背景には、上限の決められていない賠償額によって身元保証人が破産する可能性があるため、不測の事態から保証人を守ろうとする意図があります。そのため上限額は企業側で定めることが可能ですが、その金額設定については十分な検討が求められています。


企業側は、ある程度上限額が高いほうが社員の不正を防げる可能性も高くなるように考えがちですが、あまりにも上限額を高く設定すると、身元保証人を見つけることが困難になる恐れがあります。

逆に、あまりに小額では身元保証書の意味がなくなるほか、企業が被った損害を補填するのが難しくなるデメリットがあります。入社する社員の業種や業務によって、適切な金額を示せるよう考慮する必要があります。

身元保証書の目的

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介_3

身元保証書には損害賠償以外にも、いくつかの目的があります。企業にとってメリットにもなり得る、身元保証書の3つの目的について見てみましょう。

本人(入社した者)が問題のない人物であることの証明

企業は、エントリーシートや履歴書、職務経歴書、面接などによって採用を決定します。いずれも自己申告であるため、虚偽があっても、それを見極めることは困難です。身元保証書の提出を求め、第三者である身元保証人を立てることによって、新入社員が問題のない人物であることを確認でき、なりすまし入社や履歴書の虚偽などを防ぐことができます。

責任を自覚させることによる不正防止の抑止力

社員に責任を自覚させることも、身元保証書の目的のひとつです。金銭の着服、商品や備品の横領、機密情報の流出、SNSへの誹謗(ひぼう)中傷の書き込みなど、従業員による不正には、さまざまなものがあります。「身元保証人に迷惑をかけてはいけない」という意識を持つことで、不正防止の抑止力になることが期待できます。

本人と連絡が取れなくなった際の緊急連絡先の確認

社員の無断欠勤で業務が滞り、他のメンバーや顧客に迷惑をかけてしまう。そんな事例が少なくありません。事故や急病、精神疾患、退職が目的で連絡を絶っているなど、無駄欠勤にはさまざまな理由が考えられますが、身元保証書があれば、本人と連絡が取れなくなった際も緊急連絡先を確認することができます。

身元保証書の書き方

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介_4

身元保証書は、企業側が書面を作成し、身元保証人=社員の身元を保証する第三者が署名・押印します。身元保証書の書き方に法的な定めはありませんが、以下の内容を記載することが一般的です。

・保証期間を定める(未記載の場合は3年になる)
身元保証書の保証期間は、身元保証法第2条第1項で最長5年間と定められています。未記載の場合は、3年で保証期間が失効します(同法第1条)。必要に応じ更新を検討しましょう。

・損害賠償の上限額(極度額)の明記
損害賠償の上限額は企業が自由に設定できますが、一般的に支払い可能な金額に設定しておいたほうがいいでしょう。

・身元保証人の連絡先
身元保証書には、「本人と連絡が取れなくなった際の緊急連絡先の確認」という役割があります。身元保証人の住所、氏名、続柄、電話番号、携帯電話の番号、メールアドレスといった記入項目を作り、社員と連絡が取れなくなった際には、連絡が取れるようにしておきましょう。

 

サンプル例

身元保証書

株式会社 〇〇〇〇〇

代表取締役 鈴木 太郎 殿

現住所:〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 
氏名:佐藤 花子 印 
生年月日:〇年□月△△日生 

 上記の者が貴社に入社するに際し、私が身元保証人として、本人が会社の就業規則その他諸規則を守り、忠実に勤務することを保証します。

 万が一、本人が故意又は重大な過失により御社に損害を与えたときは、連帯してその損害(上限は○万円まで)を賠償することを確約いたします。
 なお、本身元保証書の契約期間は、契約締結の日から5年間とします。

20××年□月△△日
住所:〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
電話番号:□□□□□□□□□□□□
本人との関係:〇〇〇
身元保証人:佐藤 良夫 

身元保証書の注意点

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介_5

身元保証書に関する注意点を紹介します。身元保証書の提出に法的義務はありませんが、法的なルールは存在します。以下のポイントは、必ず把握しておきましょう。

自動更新ではないため、期限を過ぎた場合は更新が必要
身元保証書は、自動更新が認められていません。「異議がない場合は同一内容で更新する」といった条文を明記しても無効とみなされます。必要に応じ更新を検討しましょう。

身元保証人に責任が及ぶ場合は、保証人への通知が必要
社員が万一、故意または過失によって企業に何らかの損害を与え、身元保証人に責任が及ぶ場合、保証人への通知が必要です。通知義務を怠った場合、身元保証人に賠償を請求できない可能性があります。企業には、社員の任務や任務地の変更があった場合、身元保証人に通知する義務もあります。

損害の責任を全額負わせることはできない
身元保証書の保証期間が長期に及んでいたり、責任範囲が無制限になっていたりすると、身元保証人にとって過大な負担となります。そのため身元保証人に損害の責任をすべて負わせることはできません。

裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにあたり、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をなすに至った事由及び身元保証をなすにあたり用いた注意の程度、被用者の任務または身分上の変化その他一切の事情を斟酌(しんしゃく)する(身元保証法第5条)

身元保証に関しては、身元保証法第5条によって上記のように規定されています。身元保証人が賠償する額は、損害額そのものではありません。責任の範囲は、裁判所が合理的な金額を定めることになります。

身元保証書の提出を拒否された場合

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介_6

身元保証書の提出は、あくまでも任意です。また損害賠償規定があるため、本人だけでなく、家族や親族、友人・知人など、第三者の身元保証人に責任を負わせる内容でもあります。そのため社員が提出を拒否することが考えられます。本人の不安を払拭し、トラブルを避けるためにも、以下のような説明をしましょう。

緊急連絡先の確認のために利用することを説明

身元保証書は、想定外のトラブルに備える書類です。事故や病気、天災などによって、社員と連絡が取れなくなることも十分あり得ます。身元保証書は「緊急連絡先の確認のために利用すること」を理解してもらいましょう。

また、本人が問題のない人物であることの証明や、不正に対する抑止力となることも身元保証書の目的です。「なぜ身元保証書が必要なのか」という目的を理解してもらうことが大切です。

一般的にも広く利用されていることを説明

身元保証書の提出には法的義務はないものの、国内の多くの企業で利用されています。一般的にも利用されていることを伝え、特別に提出してもらう書類ではないことを伝えると良いでしょう。

保証目的以外で個人情報を利用しないことを説明

身元保証書には、本人だけでなく、身元保証人の個人情報も記載することになります。「保証目的以外で個人情報を利用しないこと」を必ず記載し、説明もおこなうようにしましょう。

身元保証書の法的なルール

身元保証書の提出に法的義務はありません。ただし「身元保証書の提出が必要」「期限内に身元保証書を提出しない場合は採用を取り消す」といった内容を就業規則に明記して社内ルールにしておけば、それを理由に解雇できる場合があります。

身元証明書との違い

身元保証書とは? 民法改正による変更点と入社時に提出を求める目的、書き方や注意点を紹介_7

「身元保証書」と言葉がよく似ているもので「身元(身分)証明書」がありますが、「身元保証書」とは内容も目的も異なります。
「身元(身分)証明書」とは、個人が法律上の行為能力を備えているかどうかを、公の機関が証明するものです。法律上の行為能力とは次を指します。

・禁治産(※1)または準禁治産の宣告の通知を受けていない
・後見の登記の通知を受けていない
・破産の通知を受けていない

(※1)常に心神喪失状態である人物の行為能力を制限する制度。準禁治産とは、心神耗弱などの状態にある人物の行為能力を制限する制度ですが、1999年12月8日の民法改正(2000年4月1日施行)によって、成年後見制度に移行しました。

「身元証明書」は、市区町村によっては「身分証明書」と呼ぶ場合もあります。また、身元証明書が必要な場合は、本人(社員)の本籍地の市区町村役場に請求することになります。

まとめ

身元保証書の提出には、金銭的なリスク回避のほか、不正防止、緊急連絡先の確認など、企業にとってさまざまなメリットがあります。ただし、身元保証書の提出は任意で、第三者の身元保証人にも責任が及ぶため、なかには提出を拒む社員もいるでしょう。企業側としては、入社する社員の不安を払拭できるよう、身元保証書の使用目的を十分に説明することが必要です。
また、2020年4月の民法改正によって、身元保証書の取り決めにも大きな変更が生じているため、採用担当者は認識をアップデートしておくことが必要です。
 


《ライター・監修者・編集者プロフィール》
ナカイマミ/編集者・ライター
求人媒体で求人広告の制作、編集記事の制作に10年以上携わった後、女性誌、生活情報誌、地域活性に関係する媒体などで多くの取材、ライティングを手掛ける。気が付けば、47都道府県を踏破。海外よりも日本が好き。

わん/監修者
弁護士として日々訴訟対応、法律問題問合せ対応、法務教育、契約審査などに携わる。雇用終了時のトラブルといった労働問題のほかに、債権回収やローン契約や社内法務教育に関する案件を経験。弁護士として法務教育の講師を実施していた経験を活かし、「分かりやすい」を常に意識した文章を作成するように心がけている。

田仲ダイ/編集者・ライター
エンジニアリング会社でマネジメントや人事、採用といった経験を積んだのち、フリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネスやメンタルヘルスの分野を中心に、幅広いジャンルで執筆を手掛けている。