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偽装請負とは? 判断基準や問題点、罰則と準委任・業務委託との違いを解説

偽装請負とは? 判断基準や問題点、罰則と準委任・業務委託との違いを解説

働き手の不足により、業務委託を活用する企業が増えています。しかし、業務委託する場合に注意したいのが「偽装請負」です。労働者保護の観点から禁止されている行為ですが、知らないうちに法令違反をしてしまっているケースもあります。当事者にならないためにも、偽装請負とはどういうことを指すのか? その判断基準や問題点について理解を深めておきましょう。偽装請負の代表的なケースとその回避策についても紹介します。


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「偽装請負とは? 判断基準や問題点、罰則と準委任・業務委託との違いを解説」


 

偽装請負とは

偽装請負とは? 判断基準や問題点、罰則と準委任・業務委託との違いを解説_1

偽装請負とは、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、請負契約のように偽装することを指します。

請負契約では、注文主(委託者)側が実際に業務をおこなう請負主の社員に対し、直接業務上の指示をおこなったり、契約外の業務を委託したりすることが禁止されています。直接指示をする場合は、労働者派遣契約を結ばなければなりません。つまり、「本来締結すべき労働者派遣契約を締結せずに請負契約で労働者派遣をおこなっている状態」のことを偽装請負といい、これは違法行為にあたり、罰則が科せられます。
偽装請負がなぜ違法行為にあたるのか、どのような罰則が科せられるのかについては、後述します。

請負契約とは? 業務委託契約との違い

そもそも「請負契約」とはどのような契約なのか? 正しく理解しておきましょう。

請負契約と並んでよく耳にするのが「業務委託契約」ですが、請負契約は業務委託契約の一種であるため、比較対象にはあたりません。

業務委託とは、人手が不足しているとき、あるいは専門の知識やスキルが必要なときに、従業員ではなく外部の第三者に業務を依頼(アウトソーシング)することをいいます。多くが業務単位での契約となり、業務を委託する業者との間で業務委託契約書を結び、契約内容に基づいて業務を遂行してもらうことになります。
請負契約は民法第632条において規定されており、「当事者の一方が、ある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを契約することによって、その効力を生ずる」とされています。請負契約は仕事の完成と報酬を支払うことの合意が要素であることがわかります。

業務委託契約には請負契約と委任(準委任)契約がある

そして、委託する業務内容によって、業務委託の契約形態は「請負契約」と「委任(準委任)契約」の2つに分けられます。

【業務委託契約の種類】

請負契約 委任(準委任)契約
一定の成果物を完成させ、提供することで報酬が発生する契約のことを指す。

成果物の完成責任を負うが、時間や場所、実施方法等までを問わないケースが多い。
弁護士や受付業務の代行など、役務の提供による報酬が発生する契約のことを指す。

成果物の完成責任は負わないが、期間や場所、仕事の実施方法までを限定することがある。

業務委託契約では納期や仕様、業務を遂行するうえでの方法等を注文主(委託者)と請負業者(受託者)が協議し、取り決めにより業務の一式が注文主(委託者)から請負業者(受託者)に任されます。そのため、業務委託では請負業者(受託者)を注文主(委託者)の指揮命令下に置き、直接指揮を執ったり指示命令等をしたりすることはできません。

偽装請負が起こる原因

偽装請負が起こる原因には、注文主(委託者)側にとって人件費の削減、労働者派遣契約をおこなう手間の回避など有利な条件で労働者を働かせようという意志が働いてしまう場合と、知らないうちに法令違反をしてしまっている場合があります。

本来、派遣労働者の受け入れにおいては、原則3年という期間制限に加え、福利厚生等の情報提供が必要で、労働者の雇用安定のため派遣先は簡単に契約解除できないなど、労働者派遣法上の制約が多くかかります。
一方、請負契約であれば労働者に対して福利厚生を用意する必要がなく、派遣契約よりも制約が少なくなります。そのため、請負を装った労働者の派遣、つまり偽装請負が起こってしまうことが考えられます。

知らないうちに法令違反をしてしまっている場合は、偽装請負か適法な請負か、一見しただけでは判断できないことに起因しています。次の章で詳しく見ていきましょう。

偽装請負と判断される基準

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偽装請負と判断される基準について、着目すべきは「誰が仕事の指揮命令をしているか」。これで、偽装請負かどうかが判断できます。
現場でどのような運用がなされているか? 「請負」と「労働者派遣」の違いを見ていきましょう。

■請負
請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法第632条)です。請負には、注文主(委託者)と請負業者(受託者)との間に指揮命令関係を生じないという点があり、この点が労働者派遣との違いになります。


偽装請負は顧客企業に必要な人材を斡旋するという点で、労働者派遣と似て問題がなさそうに見えるかもしれません。それでは、なぜ偽装請負は禁止されるのでしょうか。偽装請負が禁じられている理由を見ていきましょう。

厚労省:「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」より引用
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000078287.pdf

■労働者派遣
労働者派遣事業とは、派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業としておこなうことをいいます。


厚労省:「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」より引用
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000078287.pdf

自社の社員であれば、上司が部下を指揮命令下に置けます。また、派遣スタッフの場合、派遣先の指揮命令者が業務について指揮命令することが可能です。しかし、業務委託では請負業者(受託者)に業務を任せる必要があります。
もしも、請負契約を締結していながら注文主(委託者)が指揮命令してしまうと、請負契約ではなく労働者派遣となってしまいます。

たとえば、個人事業主(受託者)と請負契約を結んでいても、その労働の裁量を個人事業主に任せず、注文主(委託者)の職場の指揮命令により仕事をさせているようなケースを考えてみてください。

この場合、請負契約を結んではいるものの個人事業主に裁量がなく、注文主(委託者)の指揮命令にあるため偽装請負となります。この例では実態として注文主(委託者)の指揮命令関係がその社員と同等であるにも関わらず、請負契約という形式にして雇用責任を回避していると見なされます。

偽装請負と見なされるケース

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気を付けなければならないのは、知らぬ間に偽装請負の状態になってしまうケースです。偽装請負の判断基準は指揮命令系統でした。しかし、管理や指揮命令系統があいまいな場合は、「そんなつもりではなかった」場合でも、偽装請負と見なされることもあるので注意が必要です。
どのようなケースが偽装請負と見なされるのか、典型的な4つのパターンを紹介します。

1.代表型
代表型は請負契約にも関わらず、注文主(委託者)が請負業者(受託者)に対して業務に関して細かく指示したり、出退勤や勤務時間などを管理したりすることです。自社の社員のように指揮命令をおこないながらも、請負契約という形で雇用責任を逃れていることになります。偽装請負にありがちなパターンといえるでしょう。

2.形式だけの責任者型
形式だけの責任者型は業務委託として請負業者(受託者)が責任者を置き、注文主(委託者)の指定した就労場所等でチームとして仕事をするため、一見すると偽装請負に見えません。実際は責任者を通して注文主(委託者)が細かい指示を出し実質的な支配下に置いているため、形式だけの責任者型と呼ばれます。本来、請負業者(受託者)側の責任者の指揮命令で働かなければなりません。

3.使用者不明型
雇用主やその責任の所在が不明瞭になってしまう偽装請負のパターンです。たとえば、請負業者(受託者)Bが注文主(委託者)Aと業務委託契約を交わした仕事を請負業者(受託者)Bが別の業者Cに再委託し、その再委託先Cの雇用労働者が、大元の注文主である注文主(委託者)Aや請負業者(受託者)Bの指揮命令下で仕事をする状態です。

4.一人請負型
一人請負型は、労働者を斡旋された企業が労働者と雇用契約を結ばずに請負契約を結び、さらに労働者を斡旋された企業の指揮命令下で働かせるパターンをいいます。たとえば、業者Aが業者Bに労働者を斡旋しますが、業者Bはその労働者と雇用契約を結ばず、個人事業主として請負契約を結ばせます。しかし、実質的に雇用された社員と同じように、その労働者を業者Bの指揮命令下で就労させるような状態です。外国人労働者をはじめとした、労働者の斡旋などを受ける場合は特に注意が必要になるでしょう。

代表的な4つのパターンを紹介しましたが、これらを組み合わせた複合型のようなものもあり、見た目だけで判断がつきづらいものもあります。

派遣会社(派遣元)が偽装請負をしているケースも

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派遣会社(派遣元)と称して、人材を斡旋してくる会社が偽装請負をしているケースもあり得ます。

代表的な例は、派遣サービスをうたう会社が個人事業主と業務委託契約を結び、さらに顧客企業(派遣先)に対して人材派遣であるかのように労働力を提供し、そのまま顧客企業(派遣先)の指揮命令下で働かせるというケースです。
本来、派遣業を営むには国の許可が必要であり、雇用契約を結んだ人材を派遣すべきですが、個人事業主として業務委託契約にしておき、顧客企業(派遣先)に人材を斡旋しているケースです。

労働者派遣を希望している企業(派遣先)は、派遣会社(派遣元)から派遣スタッフの提供を受けるはずですが、派遣サービスをうたう会社が偽装請負をしていると、「派遣」されてきた人材を派遣スタッフだと誤解してしまうでしょう。そして、派遣先企業がこの事実に気づかなければ、偽装請負を許してしまっていることになります。

派遣先企業も指導や勧告などの罰則が適用される

このような場合、「派遣元事業主以外の労働者派遣事業をおこなう事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けてはならない」(労働者派遣法第24条の2)と定められていますから、派遣先企業も次のような指導等を受ける可能性があります。

・行政指導(労働者派遣法第48条第1項)
・改善命令(同法第49条第1項)
・勧告(同法第49条の2第1項)
・企業名の公表(同法第49条の2第2項)

つまり、労働者を受け入れる派遣先企業も偽装請負を助長し、その温床とならないような姿勢が求められることになります。行政指導や勧告などを受けることは企業としての信用を損ね、株主や取引先、消費者などのステークホルダーへの影響も小さくありません。そのため、派遣スタッフを受け入れる派遣先企業も、偽装請負には十分に注意する必要があります。

偽装請負は何が問題? 禁止される理由とは

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なぜ偽装請負は禁止されるのでしょうか。問題点から紐解き、偽装請負が禁じられている理由を見ていきましょう。

待遇や労働環境が不安定になる可能性がある

偽装請負がなされることにより、本来は保護されるべき労働者が保護されなくなるという問題が起こります。たとえば、「労働時間の上限が適用されない」「残業代が発生しない」「有給休暇を取得できない」「解雇権濫用の法理が適用されない(注文主側が契約を打ち切りやすい)」など、偽装請負にはさまざまな弊害が起こることが予想されます。

派遣スタッフとして働く場合、残業や休日出勤をすれば時間外手当が支給されます。時間外手当は法律で支給が定められているものです。また、健康保険や厚生年金などの社会保険、雇用保険などにも加入できます。保険は、病気・ケガ・失業といった不測の事態が生じたときの助けとなるものです。

しかし、偽装請負で働く人材には、請負会社に雇用されずに働いている人もいます。そのため、残業をしても時間外手当は支給されませんし、社会保険・雇用保険などにも未加入です。不測の事態が生じた場合に、すべて自己責任でまかなうことになってしまいます。労働者保護の観点でいえば、何か問題や事故が起こったとき、労働者への責任の所在があいまいになってしまうことから禁止されています。

《出典》厚生労働省「労働者派遣制度について」
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/08.html

中間搾取の禁止に違反する

労働者派遣や労働者供給がおこなわれるとき、中間に入る業者が労働者から利益を搾取する可能性があり、労働基準法ではこの中間搾取が禁止されています。
偽装請負は労働者供給業にあたり、事業者はこの中間搾取をおこなったと見なされるため労働基準法違反にあたります。このことも、偽装請負が禁止される理由の1つとなります。

このように、偽装請負では、労働者の待遇の悪化・不安定化をもたらす可能性があり、注文主による労働者の不当な搾取が発生しやすいと考えられます。労働者に大きな不利益を与えないよう「労働者保護」のため、偽装請負は法律上禁止されています。

偽装請負の罰則

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偽装請負をしてしまうと、どのような罰則があるのでしょうか。主に次の3つの法律によって定められています。

■労働者派遣法
労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の保護等に関する法律」です。偽装請負をおこなった委託者(注文主)と受託者(請負業者)は、許可を受けないで労働者派遣事業をおこなった者と見なされ、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(第59条2号)となります。

■職業安定法
職業安定法第44条「労働者供給事業の禁止」では、労働者供給事業の許可を受けたもの以外が労働者供給事業をおこなうことや、そこから供給される労働者を自らの指揮命令下で労働させることを禁止しています。違法な労働者供給事業であると見なされれば、委託者(注文主)と受託者(請負業者)は、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(第64条10号)となります。罰則の対象者は当該の会社以外に、違反行為を直接行った者や従業員に指示しておこなわせた会社の代表者、管理職など広く及ぶケースもあります。

■労働基準法
労働基準法第6条では「何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」とされており、これによって中間搾取が禁止されています。請負を装った労働者供給や労働者派遣がおこなわれた場合、受託者(請負業者)による中間搾取となるケースがあり、委託者(注文主)も搾取を幇助(ほうじょ)したとして同条違反となる可能性があります。この場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます(同法118条)

企業が偽装請負を回避するポイント

それでは、どうすれば偽装請負を回避することができるでしょうか。

・偽装請負と疑われないような契約書を正しく作成する
請負(業務委託)を開始するにあたり、業務委託契約書を正しく作成することが重要です。主なポイントは以下の3つになります。

・業務委託であることを明記
・注文主(委託者)が指揮命令できないと明記
・発注内容を仕様書などで具体的に明記

契約書に、注文主(委託者)が受託者(請負業者)に対して、指揮命令権限を持っているようなことをうかがわせる条項が含まれている場合、偽装請負と判断されるリスクが高まります。前述の偽装請負と判断されやすいケースを参考に、そのような要素が契約書のなかに少しでも含まれていれば、受託者(請負業者)と契約交渉をおこない極力排除するようにしましょう。また、違法な契約になっていないかどうか、弁護士によるリーガルチェックを受けることも回避策の1つです。

・偽装請負を正しく理解する
偽装請負を回避するには、「どういったケースが違法になるのか」正しく理解することも求められます。社員教育では請負業者(受託者)に対し、注文主(委託者)側の社員が誤って指揮命令をおこなうことがないよう、浸透させていくことが必要です。つまり、社員教育と環境整備を整えることが大切です。

・委託者(注文主)による指導・介入が指揮命令と見なされないよう注意する
前述の環境整備というのは、委託者(注文主)側の社員が誤って指示してしまわないように環境を整えることです。社員と業務請負の受託者(請負業者)の机が近い場合、社員がつい指示してしまうことが起こり得ます。そうならないよう、物理的な距離を保てるようにしましょう。

また、仕様書に発注内容を詳しく記載して受託者(請負業者)と合意しておくことで、都度に指揮命令をおこなわなくても発注の目的を達成しやすくなるでしょう。契約書に詳細を記載した仕様書を添付することも、偽装請負を回避するためのポイントの1つです。

まとめ

偽装請負とはどのようなケースを指すのか、問題点、罰則、回避策について解説しました。偽装請負を回避するために、もっとも重要なのは「労働者保護」の観点です。労働力を求めるあまり労働者保護の視点がおろそかになると、意図せず偽装請負の当事者になってしまう可能性もあります。労働者を受け入れる立場である派遣先企業では、契約事項などを注意して確認することが重要となります。
 


《ライター・監修者プロフィール》
ナカイマミ/編集者・ライター
求人媒体で求人広告の制作、編集記事の制作に10年以上携わった後、女性誌、生活情報誌、地域活性に関係する媒体などで多くの取材、ライティングを手掛ける。気が付けば、47都道府県を踏破。海外よりも日本が好き。

わん/監修者
弁護士として日々訴訟対応、法律問題問合せ対応、法務教育、契約審査などに携わる。雇用終了時のトラブルといった労働問題のほかに、債権回収やローン契約や社内法務教育に関する案件を経験。弁護士として法務教育の講師を実施していた経験を活かし、「分かりやすい」を常に意識した文章を作成するように心がけている。