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導入企業が増加中。新しい働き方を実現させるフリーアドレスとは

導入企業が増加中。新しい働き方を実現させるフリーアドレスとは

オフィスにおいて従業員それぞれの席を定めず、業務の内容や気分によって自由な席で仕事をする「フリーアドレス」が、働き方改革を推進するスタイルとして定着しつつあります。

従来であれば、オフィスでの従業員の座席は固定されていることが一般的でした。その考え方は、柔軟な働き方を叶えようとする企業の姿勢により、少しずつ変化が見られています。

今回はそんなフリーアドレスの基本的な知識やメリット、実現のために必要なポイントを解説します。

フリーアドレスとは

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オフィス内で従業員が自由に働く席を選択できるフリーアドレスは、もともとアメリカのIT企業において個室オフィスを開放、座席を共有する形式の働き方が由来といわれています。日本では1980年代後半に、ある建設会社がオープンオフィスで座席を共有するスタイルで業務をおこなったことをきっかけに、国内でも少しずつ広がっていきました。

1980年代後半には新しいオフィスのあり方として、フリーアドレスは一躍ブームとなりますが、運用の難しさから効果が得られず、当初の座席を固定するオフィスに戻っていく企業もあったといいます。

フリーアドレスに適した企業


フリーアドレスによってオフィスの省スペース化や業務の効率化を叶えようとするも、企業の特徴によっては適しておらず、かえって逆効果になってしまうケースも見られます。

フリーアドレスに向いている企業の条件には、「在席率」、「IT化」が大きく関わっています。

フリーアドレスに適している企業には、「オフィスの在籍率が低い」といった共通点があります。たとえば外出機会の多い営業職やクライアントのもとに常駐するエンジニアが多く所属する企業では、フリーアドレスの導入により座席の省スペース化につながりやすく、業務の妨げにはならないでしょう。

また、フリーアドレスはどの座席でも業務を進められることが必須条件です。そのためには、Wi-Fi環境の整備やコミュニケーションツールの導入、情報共有のためのインフラ整備などは欠かせません。このような環境が整っている企業は、フリーアドレスの導入が効果的といえます。

フリーアドレスのメリットとデメリット

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フリーアドレスはメリットも大きいですが、デメリットも存在します。それぞれの具体的な内容を理解し、導入を慎重に検討するよう注意しましょう。

コミュニケーションの活性化によるパフォーマンスの向上


座席に制限がないフリーアドレスでは、異なる部署の従業員とコミュニケーションを取る機会が増えます。従来であれば会話をする機会も得られなかった従業員とのコミュニケーションが、新たなアイデアの創出につながる可能性もあるでしょう。このように、部署間を超えた交流によってパフォーマンスの向上が期待できます。

また、同じ部署内でもより気軽な交流ができるため、会議を実施せずとも簡単な打ち合わせが可能となります。情報共有が容易になることで業務が進めやすく、効率化できるでしょう。

オフィス内スペースの有効活用


フリーアドレスを導入した企業では、人数分のデスクと椅子は不要です。備品にかかる経費の削減のほか、空いたスペースを有効に活用できます。

たとえばソファーを置けばコミュニケーションスペースに、簡易ベッドを置けば体調不良の従業員が使用できる救護スペースなど、使い方はさまざまです。さらに使い方を従業員に委ねることで、より魅力的なオフィス作りへの機会創出にもなります。

クリーンデスクの意識向上


フリーアドレスは従来の固定化されたデスクとは異なり、退勤時には書類やパソコンの片付けをしなければなりません。使用しないものは個人のロッカーにしまったり、必要に応じて処分をする習慣がつき、オフィスがきれいな状態を保つことができます。

ソーシャルディスタンスの確保


新型コロナウイルス感染予防のため、政府は2メートル以上の対人距離であるソーシャルディスタンスの確保を呼びかけています。

緊急事態宣言が解除された後でも、飛沫防止のためのアクリルパネルや消毒液を設置するオフィスが増えたように、企業側でも新しい生活様式を取り入れたうえでの業務が急がれています。

フリーアドレスでは、出社した人数に応じて座席が自由に選べるため、ソーシャルディスタンスを確保しながら業務に取り組むことが可能です。

一方で、フリーアドレスには以下のようなデメリットもあります。

マネジメントの支障


フリーアドレスでは誰がどこで業務を進めているのかわかりづらく、同じ部署でも意識して近くの位置に行かなければコミュニケーションの機会が大きく減少します。部下が質問をする、上司が声をかけるといったコミュニケーションが難しくなった結果、マネジメントに支障が出てくることも考えられます。

総務省の資料「新たな働き方に必要となるICTの導入と他の取組の組合せ」によれば、2019年時点で情報共有・コミュニケーションのためのシステム・ツールとして電子メールやアドレス帳が約8割もの企業で導入されている一方、1割以上がシステムやツールを導入していないことも明らかになっています。チャットやインスタントメッセンジャーも導入は1割程度であり、多くの企業において社内でのコミュニケーションの手段が限られている状況がうかがえます。

そのため、チャットツールを導入していつでも連絡ができる体制を作る、決められた曜日に部署で集まるといった形でコミュニケーションの機会を作ることが重要です。

集中力の低下


自由な座席を選べると、仲の良い同僚と話し込んでしまうこともあるでしょう。周囲にいる人は話し声が気になり、業務に集中できないために効率が落ちてしまう可能性も考えられます。

そこで業務に集中したい人が利用できる「集中席」や、差し支えない程度に時間を決めて私語を禁止する「集中タイム」を設けると業務にメリハリがつきます。

導入コストの発生


ネットワーク環境の整備やフリーアドレスに適したレイアウトへの変更、コミュニケーションツール使用ルールの作成など、フリーアドレス導入時にはさまざまなコストが発生します。

無計画に導入を急ぐのではなく、現在のオフィスに必要なものを洗い出したうえで必要なコストを見極めましょう。また、長期的な視点を持てば、フリーアドレス導入によるオフィススペースの削減による費用対効果は十分に得られると考えられます。

フリーアドレス導入に必要なもの

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フリーアドレスを導入する際には、どのような設備が必要になるのでしょうか。

鍵付きのロッカー


フリーアドレスでは誰でも自由に座席を決めて良いからこそ、常にデスクの上はきれいにしておく必要が生じます。一般的にフリーアドレスで使用するデスクには引き出しやキャビネットが設けられていないため、少し座席を離れた際に重要な資料を紛失してしまうリスクがあります。

従業員には鍵付きのロッカーを提供し、各自で持ち物の管理ができるようにすることはフリーアドレスの導入に必須です。

ノートパソコン


座席を自由に移動するためには、ノートパソコンが必須です。その他にもタブレット端末があれば、資料を示しながらの簡単な打ち合わせも可能です。

デスク・椅子


多くの従業員が共用できるよう、フリーアドレスでは長机や円卓があると便利です。複数人が使えるためコミュニケーションが生まれやすくなります。

また、シンプルなソファが向き合うボックス席(ファミレス席)は、セミクローズドの空間となるために集中スペースとして使えるほか、ランチミーティングにも最適です。オフィスのスペースに合わせ、目的別の座席を設けるのも良いでしょう。

電話


従来のオフィスでは各座席に固定電話を置かれていましたが、都度座る社員が異なるフリーアドレスでは固定電話だと不便です。実際に、電話の取り次ぎが課題となり、フリーアドレスの導入を取り止めてしまう企業も見られます。

電話の取り次ぎをスムーズに行うため、フリーアドレスを導入している企業では社用の携帯電話を配布するほか、社員が所持しているスマートフォンから内線で会社宛ての電話を受けられるサービスに加入するといった工夫がされています。

フリーアドレス導入のポイント

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過去にはフリーアドレスの導入を急いだ結果、「誰がどこにいるのか把握できず、電話の取り継ぎにおける負担が増加した」「持ち物の管理ができておらず、重要書類を紛失した」といった混乱が起き、社内が大混乱に陥ったという企業もありました。

フリーアドレスは導入そのものよりも、効果が発揮されるように運用を進めていくことが重要です。あらかじめ導入のポイントを把握することが、フリーアドレスの定着へのヒントとなります。

トライアルの実施


フリーアドレスの導入を急ぐのではなく、まずは部署ごとに少しずつトライアルをおこないます。トライアルによって部署ごとのフリーアドレスの適性が把握できます。

経理や人事は、個人情報やお金を扱う機会が多く、持ち出しや共有が難しい機密情報の取り扱うためにフリーアドレスは不向きです。この他にも部署や業務内容によっては、在席率やセキュリティに大きな差が生じているケースも見られます。そのため、全社でのフリーアドレス導入ではなく、一部の部署は座席を固定したままでの体制を維持する方法も有効です。

運用ルールの制定


ルールを定めず、漠然とフリーアドレスを導入しても、効果が発揮されない可能性もあります。「退勤時にはデスクの上に何もない状態にする」「フリーアドレス活性化に向け、1日のうち何度かは移動をする」といったルールを決め、周知させることが求められます。

まとめ


フリーアドレスは柔軟な働き方を実現できる方法ではあるものの、企業によっては適さないことも事実です。まずは企業の課題を洗い出し、必要な設備やルールを分析するところから始めることが、フリーアドレスの成功への近道といえるでしょう。