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リスキリングとは? 何を学ぶ?実施のメリット、企業が取り組む際のポイントも紹介

リスキリングとは? 何を学ぶ?実施のメリット、企業が取り組む際のポイントも紹介

リスキリングとは、時代の変化にともない新たに必要とされるスキルを獲得すること、あるいは、企業が従業員のためにこうしたスキルを獲得する機会を幅広く提供することです。現代においては、デジタル化によりあらゆる職業・職種において仕事のしかたが変化しているので、それに対応できるデジタルスキルを獲得することを指すことが多いです。

近年、企業にとってDX推進が急務ですが、DX人材の不足が大きな課題となっています。そこで、デジタル分野におけるリスキリングが注目されています。リスキリングは外部からDX人材を採用するよりも時間がかかりますが、メリットも多く、DXを推進する企業にとっては欠かせない取り組みです。
今回は、リスキリングとは何か、メリットや手順、企業が取り組む際のポイントなどを解説します。

リスキリングとは

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リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、現在の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する、または企業が従業員に対して獲得させる」ことです。(経済産業省とリクルートワークスによる定義)「リスキル」と呼ぶこともあります。

《参考記事》
経済産業省:リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流―
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf

この定義をきいて「新しい技術や考え方を学ぶために以前から実施している社内研修とどこが違うのか?」と思う人もいるかもしれません。リスキリングには、以下のような経緯があります。

AIなどにより全世界で多くの仕事が消失するといわれています。そんななかで、2018年に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)の「リスキル革命」と銘打ったセッションでリスキリングという言葉が登場しました。そこでは「2030年までに全世界で10億人をリスキルする」ことが宣言されました。多くの人が失業しないためにリスキリングが重要であり、産業界が率先して備えようという意思表示です。

このような動きを受け、日本では経済産業省が2021年から取り組む「デジタル時代の人材政策に関する検討会」でリスキリングを取り上げています。DXを推進するために不可欠なデジタル人材の確保のため、既存の従業員に新たなスキルを獲得させるリスキリングが有効、という考え方です。

広義のリスキリングは時代の変化にともなって必要なスキル全般の再習得を意味しますが、最近は「リスキリングとはDX推進のために必要なデジタルスキルの再習得である」という狭義の意味で使われることが多いです。また、リスキリングでは企業内の一部の社員あるいは希望者が学ぶのではなく、すべての従業員を対象にスキルを再習得させることが基本です。

リカレントとの違い

リスキリングと似た概念として「リカレント」があります。リカレントとは繰り返すという意味で、リカレント教育とは社会人の学び直しのことをいいます。典型的なのは社会に出たあとで仕事を辞め、自分で技術を習得したり資格を取得したりしたあとに再就職するスタイルです。このほかに、企業が学び直しの機会を提供し、勤務を継続しながら学び直すスタイルもリカレント教育に含まれます。

企業が提供するリカレント教育とリスキリングの違いは何でしょうか。リカレントは、「人生100年時代のキャリア形成のため、個人にとって必要な学びの機会」を企業が支援します。一方のリスキリングは、「DXのような社会変革に対応するため、従業員がスキルを学ぶ機会」を企業が提供することです。リスキリングは全員が必ず取得すべき必修科目、リカレントは自分の強みを活かすための選択科目といった違いがあります。

リスキリングが注目される背景

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リスキリングがなぜ注目されているのか、その背景を解説します。

DX推進のための人材確保が急務

日本でもDX推進が急務と認識されていますが、順調に進んでいるとはいえません。その大きな要因がデジタル人材の不足です。以下は、日米企業におけるDXを推進する人材の状況についての調査結果(DX白書「日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術」、2021年)です。


DXで先を行く米国に比べて、日本ではDXを担う人材が量・質ともに不足していることが明らかです。人材が「大幅に不足している」という回答がどちらも3割程度あることを考えると、外部からの採用で十分な人材を確保することは困難と考えられます。DX推進のために、社内人材のリスキリングが重要といえるでしょう。

AIなどの進化がもたらす技術的失業への対策

野村総合研究所は2015年、英米との共同研究により「10~20年後にAIやロボットなどによる代替可能性が高い労働人口の割合は、日本では49%」との試算を発表しました。これらを「技術的失業」と呼びます。同じ調査において英米はそれぞれ35%、47%とされました。米国ではこうした将来への危機感をふまえ、社員に対してリスキリングを提供することが増えています。

上記の報告では「社員の学び直し(リスキリング)」についても調査しています。AI、IoT、データサイエンスなどの先端技術領域に関する社員の学び直しの実施状況と対象について、米国の企業は「全社員対象での実施」がもっとも多く、「特定社員向けの実施」という企業を合わせると7割を超えるのに対して、日本の企業では「実施していないし検討もしていない」の割合が5割近いという結果でした。日本企業は今後さらにリスキリングへの意識を高めていく必要があるといえるでしょう。

リスキリングを導入する手順

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企業がリスキリングを導入するときの手順は以下のようになります。

① 習得すべきスキルを決める
企業が従業員にどんなスキルを獲得させるべきかについて、「他の企業がやっているから」と一般論で決めることはできません。

自社に必要なスキルは
・現在保有するスキルを把握する
・事業目標達成のために必要なスキルを明確にする

という2つのステップにより明らかになります。「スキルマップ」「スキルデータベース」などで現状を可視化し、足りないスキルを特定する手法が有効です。この作業を継続的に行い、習得すべきスキルを更新し続けることも必要です。

② スキルを習得する手段を決める
社内で教材を準備するほか、外部委託、他社が提供するプログラムの活用などの選択肢があります。

③ リスキリングを実施する
先に述べたように、対象は全従業員とするのが基本です。確実な実施のため、就業時間内で取り組めるように設定します。

④ 習得スキルを実務に活かし、定着させる
習得したスキルをすぐに仕事で活用できる人もいれば、定着させるまでに時間を要する人もいます。新入社員のOJTや仮配属のような「試行錯誤が可能な実践の場」を提供することがおすすめです。

企業がリスキリングを実施するメリット

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リスキリングの実施にはコストも手間もかかりますが、以下のようなメリットもあります。

・生産性の向上
デジタルスキル向上により一人ひとりの作業効率アップが期待できるでしょう。必要なデジタルツールを使いこなして既存業務を効率化し、そこで確保できた工数をコア業務や新規事業に充てるといった形でも生産性向上につながりそうです。

・新たな価値創出の基盤が整う
デジタル技術による業務の変革を進めていった先にDXが目指すゴールは、新たな価値の創出と競争上の優位性の確立です。リスキリングによってDX人材を確保することで、価値創出の基盤が整うでしょう。

・採用コストの削減と企業文化の継承
デジタル人材を外部から採用するよりも、リスキリングにより社内で育成した方がコストが低いというケースもあり、社内の人材を活用すれば企業文化を維持・継承できるというメリットも指摘されています。

・従業員エンゲージメントが向上
有用なスキルを習得させてくれる企業は従業員にとって好ましく、エンゲージメントの向上が期待できます。人材不足の時代に優れた人材を確保し続けるためにもリスキリングは有効といえるでしょう。

企業がリスキリングに取り組む際のポイント

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企業がリスキリングに取り組む際の主な5つのポイントについて紹介します。

リスキリングの必要性を社内で浸透させる

リスキリングを成功させるためにも、従業員には「なぜリスキリングが必要なのか」を理解して、目的意識と意欲をもって学んでもらう必要があります。

リスキリング実施の前段階として、DXの重要性や国内外の事例を紹介したり、リスキリングを通じて自社がどのようにDXを推進し、どんなゴールを目指すのかといった企業のミッションを示したりして、理解を深める必要があります。また、リスキリングの途上においても「この知識を今後どのように活かせるのか」を共有していくことも有効でしょう。

「全従業員」を対象とする

技術部門やリーダー職だけ、あるいは希望者だけではなく、全従業員を対象とすることが基本です。DXでは「全員のデジタルスキルを押し上げる」必要があるからです。契約社員やアルバイト・パート社員もリスキリングの対象に含めることができれば理想的です。

モチベーションを維持して学べる仕組みを作る

学ぶ前の現有スキルと学んだあとのスキルを可視化し、リスキリング後の仕事の可能性を従業員がイメージできるようにします。リスキリングの手段としてはデジタルプログラムの提供などが一般的ですが、外部の講師を招くといった学習意欲を高めるようなカリキュラムの提供も効果的でしょう。

リスキリングに必要なプログラムを、外部リソースも含めて柔軟に選択する

リスキリングのプログラムの選択肢として、自社でコンテンツを用意するほか、外部のコンテンツやリソースを活用する方法があります。

たとえば「マイクロ・クレデンシャル」は、細分化された単位ごとに学び、習得者に対しては「デジタル・バッジ」が付与される仕組みです。GoogleやMicrosoftが全世界向けに提供しているリスキリングのためのマイクロ・クレデンシャルを活用するという方法があります。

また、東京都は「DX人材リスキリング支援事業」を展開していますが、こうした自治体の取り組みは今後も拡大すると思われます。ほかにも大学が提供するプログラムやDX関連のイベントなど、多様な機会を活用することができるでしょう。

スキルの実務への活用まで視野に入れたプランを策定する

習得したスキルが仕事で活用され、生産性向上などの成果が現れて初めて、リスキリングの成功といえます。配置転換、社内の人材交流、新規事業立ち上げ、社内起業の促進など、身に着けたスキルを活かせる機会を提供することも企業の役目といえるでしょう。

まとめ

「リスキリングで何を習得すべきか」は、従業員の現有スキルと企業の事業戦略によって決まるため、企業によってリスキリングの内容も方法もそれぞれ異なります。企業はまず学ぶべきスキルを明確にして、次にリスキリングの手段やプログラムを選択します。

こうしたプロセスを経て、自社にとって適切なリスキリングを実施することにより、生産性向上やDX推進の加速化が可能です。リスキリングを成功させるためには、社内の理解を得ること、外部のリソースやプログラムをうまく取り入れることなどがポイントといえるでしょう。

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スタッフサービスで行っているエンジニアのスキルアップやリスキリング支援を紹介
https://www.staffservice.co.jp/nt-files/nr_220427.html


ライタープロフィール
ライター:ほんだ・こはだ
子育て休業時に書籍を執筆したことをきっかけにライター業をスタート。IT、飲食、不動産などで企業のオウンドメディアを多数執筆し、SEOライティングなどで活動中。オフタイムの息抜きは商店街や駅ナカ散策。