育児・介護休業法とは?
「育児・介護休業法」の正式名称は、「育児休業等育児または家族介護をおこなう労働者の福祉に関する法律」で、育児や介護をする必要がある労働者を支援し、仕事と家庭を両立し、労働の継続ができることを目的とした法律です。
具体的には、育児や介護のための休暇を与えたり、就労時間を短縮したり、支援金を給付したりする制度です。「育児」という名称から女性のための制度だと考える方も少なくないでしょう。しかし、この法律の対象は「労働者」であり、男女の区別はありません。男性も育児休暇を取得することは可能で、配偶者が専業主婦の場合も例外ではありません。
育児・介護休業法の改正
育児・介護休業法は、これまでにも何度か改正がおこなわれてきました。ここでは、2022年(令和4年)4月1日から段階的に施行される改正のポイントについて紹介します。
1)雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化(令和4年4月1日施行)
育児休業と「産後パパ育休」の申し出が円滑におこなわれるようにするために、事業主は育休取得や復帰後について研修を実施したり、相談窓口を設置したりすることが求められます。また、本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出た労働者に対して、面談や書面交付などを通じて、育児休業制度の周知や取得意向の確認をおこなわなければなりません。
2)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(令和4年4月1日施行)
現行の取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件が緩和されます。「1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない」という要件を満たせば、パートやアルバイト、契約社員など有期雇用労働者も、育児・介護休業を取得することができるようになります。
3)産後パパ育休(出生時育児休業)の創設(令和4年10月1日施行)
現行法では「パパ休暇」という制度があります。通常の「育児休業」が取得できるのは、子どもが1歳になるまでに連続した期間で1回のみです。それが、「パパ休暇」では、子どもの出生後8週間以内に育児休業を取得・終了した場合に限り、特別な事情がなくても育児休業を再度取得できる制度でした。
そして「パパ休暇」に代わり、令和4年10月1日からは、男女とも仕事と育児を両立できるよう「産後パパ育休制度(出生時育児休業)」が創設されます。「産後パパ育休制度」は、男性労働者が子どもの出生後8週間以内に4週間までの休業を取得できる制度で、通常の育児休業とは別に新設される制度になります。
なお育児・介護休業法の改正により、通常の「育児休業」が分割取得できるようになること、そして「産後パパ育休制度」創設されることに伴い、パパ休暇制度は廃止となります。
産後パパ育休制度(出生時育児休業) |
パパ休暇 |
令和4年10月1日~ |
~令和4年9月30日まで |
通常の育児休業とは別に新設された制度
出生後8週間以内に4週間まで取得でき、分割取得や通常の育児休業との併用も可能 |
通常の育児休業に付随する特例制度
出生後8週間以内に育児休業を取得・終了した場合、特別な事情がなくても育児休業を再度取得できる
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5)育児休業取得状況の公表の義務化(令和5年4月1日施行)
従業員数1,000人超の企業は、男性の育児休業の取得率などを年1回公表することが義務付けられます。いずれも、男女ともに仕事と家庭を両立できるよう後押しすることを目的とした改正です。制度の整備が進むことで、休業に伴うブランクやキャリア形成への影響が最小限に抑えられることが期待されます。
育児・介護休業のメリット
育児・介護休業のメリットについて、労働者、企業、それぞれの面から見ていきましょう。
労働者側のメリット
育休・介護休業法が整備されて誰もが取得しやすくなることは、労働者にとって多くの利点があります。特に、出産・子育てや介護によってキャリアが中断されがちだった女性にとっては、しっかり活用したい制度だといえるでしょう。
■育児に集中することができる
育児は喜びが大きい反面、時間と心身の負担が大きく、養育者にとってはストレスになることもあります。しかし、休業を取得することで育児に集中できるようになり、養育者のストレス軽減が期待できます。育児を楽しむ余裕にもつながるでしょう。
■配偶者と負担を分担できる
今回の育児・介護休業法の改正で、男性はより育児休暇を取得しやすくなるでしょう。それにより、女性に偏りがちな育児の負担を配偶者と分担することができます。このことは、女性だけでなく男性が育児の大変さや喜びを知る機会にもなります。
企業側のメリット
育児・介護休業法を活用する利点は、もちろん企業側にもあります。取得率アップを推し進めることで、主に以下のようなメリットが得られます。
■企業のイメージや評価アップが期待できる
育児・介護休業制度が浸透しているといえる企業は、まだまだ多くはない状況です。そんな中で、制度取得を推進する企業姿勢は社会的イメージをアップさせるでしょう。ライフワークバランスを充実させることができる企業として映り、人材確保にもプラスに働きます。
■従業員のモチベーションが向上する
育児・介護休業を取得することでブランクが生まれることを気にする従業員は多いでしょう。制度が整うことは、キャリア継続の大きな後押しとなります。家庭環境が変わっても生き生きと働き続けられる職場であることは従業員の士気アップにつながり、ひいては、企業の財産にもなり得るでしょう。
■近年増加傾向にある介護離職を防ぐことができる
育児・介護休業制度は名称どおり、親族などの介護が必要な労働者も対象としています。具体的には、介護を要する家族が1人の場合は年5日まで、2人の場合は年10日まで介護休暇を取得することができます。
生産年齢人口の減少は、今後一層加速することが予想されます。介護をしながら仕事を続けられる制度・環境を整えることで、企業は人材雇用の維持が期待できます。なお介護休業の場合も、対象労働者が合計5日以上の介護休業を取得することで、上記の「両立等支援助成金」が支給されます。
育児・介護休業を取得しやすくするポイント
育児・介護休業の法整備は徐々に進んでおり、男性の育休取得率も少しずつ上昇しています。厚生労働省の
雇用均等基本調査(2021年7月発表)によると、女性の育休取得率は81.6%で、男性の育休取得率は12.65%でした。厚生労働省が目標としている男性の育休取得率は30%には及びませんが、初めて1割を超え過去最高を記録しています。
一方で、取得率が上がりにくい背景として、周囲に迷惑をかけられないという雰囲気や、仕事に復帰しづらいのではないかという不安などを従業員が抱いていることが挙げられます。このような環境を変えていくことが、従業員がより育児・介護休業を取得しやすくするための鍵となるでしょう。そのための具体的なポイントを紹介します。
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「平成30年度雇用均等基本調査(速報版)」より
従業員にあらかじめ、休暇取得が可能であることを伝える
今回の4月の改正で義務化されたように、従業員に対して制度の周知を図ることは必須となります。それにより従業員は、将来的な見通しがしやすくなり、不安を払拭することにもつながるでしょう。例えば、男性の育休取得者に休暇中の過ごし方を取材して公開することで具体的なイメージが抱きやすくなり、育児・介護休業の取得率が大きくアップした企業もあります。加えて、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員には、育児休業制度について面談や書面などで個別に周知・意向確認することも義務化されます。
労働者がいつでも休暇取得できるシステムを用意する
育児と仕事の両立をサポートするため、独自のシステムを用意している企業もあります。例えば、出産祝い金の付与や事業所内託児所の設置、家庭での保育が難しい場合の子連れ出勤許可、ベビーシッターや家事代行サービスの提供など。また、これらのシステムを利用しやすいよう、相談会やオリエンテーション、子育て中の社員のコミュニティづくりなども合わせておこなうことで、より効果的な施策となるでしょう。
休暇により欠員が出た際の人員補充の準備をしておく
育児・介護休業に伴い人員が一時的に減ることで、周囲への負担は増加するのが一般的です。しかし、それは生産性の低下や、残された従業員の不満につながりかねません。その回避のためには、育児・介護休業取得に合わせて、代替要員を確保することに加えて、一部の従業員に負担が偏らないよう適切な働き方や体制を整備する、ICTを活用して人為的業務を軽減するなどの準備が不可欠です。
育児・介護による休暇取得を理由にしたパワハラやモラハラの防止のための人材教育を強化する
育休取得に対するハラスメントが社会問題にもなっている昨今。今回の改正では、育児や介護により就業ができないことで不利益な扱い(解雇や降格、減給など)が生じないよう定めています。企業には、上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を講じることも義務付けられます。
育休取得に周囲の理解や協力は欠かせません。社内での育児・介護休業の周知・理解促進は人材教育の一環ととらえることをおすすめします。
休業から復帰した場合の働き方などについて従業員と事前にすり合わせをしておくことも、休業取得にまつわる従業員の不安を減らすことにつながるでしょう。従業員が安心して育児・介護休業を取得できる環境は、どの従業員がいつ休暇を取得しても、事業運営に支障が出ない柔軟な組織づくりにも通じるのです。
まとめ
厚生労働省では、労働者の育休取得率向上に取り組む企業に対して、「両立支援等助成金」を支給しています。労働者が子の出生後8週間以内に連続14日(中小企業の場合は連続5日)以上の育児休業を取得すると、28.5万円(中小企業の場合は57万円)の助成金が支給されます。さらに、労働者の育児休業の申出日までに個別面談などで育児休業の取得を後押しする取り組みをした場合には、個別支援加算として5万円(中長期業の場合は10万円)が支給されます。
育児・介護休業の取得率は少しずつ上昇傾向にありますが、今回の改正がさらなる追い風となることが期待されています。改正は、2022年(令和4年)4月1日に第一段階が、同年10月1日には「産後パパ育休」創設を主とする第二段階が施行され、2023年(令和5年)4月1日には、大企業に対して取得情報の公表が課されることが予定されています。
休業制度が整備されることは、子育てや介護などをしながらでも働ける環境の実現に向かって前進すること。その推進は企業の責務であると同時に、雇用維持をはじめとする多角的なメリットにつながります。今後一層、育児・介護休業を取得しやすい環境を整備し、労働者が安心して働ける企業運営を目指しましょう。
《ライタープロフィール》
みやごかよ(コピーライター/ライター)
複数の広告制作会社にてコピーライター、プランナー、制作ディレクターを経験後に独立。現在はフリーランスとして活動中。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく~」という井上ひさしさんの言葉を大切に日々ライティング中。猫と植物とアートをこよなく愛する一女の母。