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無期転換ルールとは? 実態や例外になる社員と雇止めが無効になる場合をわかりやすく解説

無期転換ルールとは? 実態や例外になる社員と雇止めが無効になる場合をわかりやすく解説

無期転換ルールは、有期契約労働者が対象であるため、アルバイトや派遣スタッフも対象となります。有期契約労働者を雇用する人事や経営者であれば、この「有期労働契約通算5年以上の無期転換ルール」は必須の知識となります。

本記事では、無期転換ルールの基本的知識や例外、実態などを解説します。この機会に理解を深めておきましょう。

《参照元》
厚生労働省|無期転換ルールについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21917.html

無期転換ルールとは

無期転換ルールとは? 実態や例外になる社員と雇止めが無効になる場合をわかりやすく解説_1

無期転換ルールとは、有期契約労働者と企業との間で、有期契約期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換するルールのことを指します。

対象は、通算で5年以上雇用している有期契約労働者になります。この有期契約労働者が雇い主の企業に対して、無期転換の申し込みをした場合に成立します。たとえば、5年以上働いている有期契約のアルバイトが、雇用企業に対して「無期労働契約に転換したい」と申し出をすると、雇用企業はその申し出を受け入れたとみなされます。

無期転換ルールは、2013年4月1日施行された「改正労働契約法」で定められています。そのため、この申し出を断ると違法になります。

無期転換ルールの目的

無期転換ルールには、有期契約労働者の雇用を安定させるため、そして、社員への登用への道をつくるためという目的があります。「通算5年を超えて有期労働契約を反復更新している」ということは、有期契約労働者が、企業にとって恒常的な労働力として定着していると考えられます。
その場合、有期契約ではなく期間の定めのない無期労働契約に転換するのが自然である、というのが無期転換ルールの趣旨になります。

《参考サイト》
厚生労働省|無期転換の準備、進めていますか?
https://muki.mhlw.go.jp/policy/handbook_2017.pdf

無期労働契約とは

「無期労働契約」とは、雇用期間に定めのない労働契約のことです。無期雇用ともいいます。
業務内容はこれまでと同じでも、契約期間においては定めがなくなるため、有期労働契約よりも雇用が安定しているといえます。長期就業してもらいたい雇用者側と、慣れた職場で長く働きたい労働者側の双方とも安心感が得られる雇用契約といえるでしょう。
また、正社員(正規社員)も無期労働契約になりますが、「無期労働契約=正社員」とは限りません。

有期労働契約とは

「有期労働契約」とは、3ヶ月や6ヶ月など期間の定めのある労働契約のことを指します。有期労働契約の契約期間は、原則3年を超える契約はしてはいけないと、労働基準法第14条において定められています。契約期間を1年超にしてはいけない理由は、長期間雇用による労働者の束縛、強制労働などのリスクから労働者を保護するためです。

無期転換ルールの適用条件

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無期転換ルールは、以下の3点を満たしている有期契約労働者が対象になります。

・有期労働契約の通算期間が5年を超えている
・労働契約の更新回数が1回以上
・同一の使用者との間で労働契約を結んでいる

雇用形態や名称を問わず、有期契約であればアルバイトやパートタイマーも対象となります。
ただし、上記の要件を満たしていても例外となるケースもあります(こちらは後述します)。

また、通算期間の考え方として、労働契約の途中で一定の無契約の期間がある場合(クーリング)、通算されないケースもあります。派遣スタッフの場合は別途、労働者派遣法(派遣法)の「期間制限」という制度の対象にもなるため、併せて確認が必要となります。

無期転換ルールの例外になる有期契約労働者

無期転換ルールには、例外となるケースがあります。
以下のいずれかに該当する有期契約労働者は、特例で無期転換ルールの例外になります。

・高度な専門的知識などを有している
・定年後も同一企業で引き続き雇用されている

上記に該当する有期契約労働者は、“事業主がその特性に応じた適切な雇用管理を実施する場合に、一定の期間については、無期転換申込権が発生しないこととする”とされています(専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法)。

高度な専門的知識を有している高度専門職の定義には、1年間当たりの賃金の額に換算した額が1,075万円以上という年収要件や、「博士の学位を有する者」や「公認会計士、医師など」といった専門職の範囲があります。

通算期間の考え方(クーリングとは)

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有期労働契約は、更新した契約期間の通算で計算されます。ただし、契約期間の間に無契約の期間(クーリング期間)があった場合、無契約の期間がどれくらいあるかで5年の通算対象となるかどうかが異なります。

クーリングが有効であれば、5年の通算はリセットされ、1からカウントすることになります。また、クーリング期間は、「6ヶ月以上の無契約期間」があった場合は、有効となります。

カウントの対象になる有期労働契約の契約期間が10ヶ月以下の場合は、無契約期間が6ヶ月未満でもクーリングが成立する場合があります。詳しくは下表をご覧ください。

カウントの対象となる有期労働契約の契約期間 契約がない期間(必要なクーリング期間)
2ヶ月以下 1ヶ月以上
2ヶ月超~4ヶ月以下 2ヶ月以上
4ヶ月超~6ヶ月以下 3ヶ月以上
6ヶ月超~8ヶ月以下 4ヶ月以上
8ヶ月超~10ヶ月以下 5ヶ月以上
10ヶ月超~ 6ヶ月以上

《出典元》
厚生労働省|通算契約期間の計算について(クーリングとは)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/pamphlet04.pdf

無期転換ルール運用上の注意点

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労働者派遣法には、「同一の派遣先の事業所において、派遣可能期間(派遣先で新たな労働者派遣を受け入れてから3年)を超えて派遣就業することはできない」という期間制限、いわゆる3年ルールがあります。

派遣スタッフは、派遣会社(派遣元企業)と雇用契約を結んでいるので、無期転換ルールが適用されるのは派遣会社(派遣元企業)となります。

通算で5年になる契約が更新されると、有期契約労働者から無期契約社員への転換権が発生しますが、労働契約法では企業から有期契約労働者本人にその旨を説明する義務はありません。

しかし、転換権の行使に関わるトラブルの防止と計画的な人事管理をおこなうためには、労働条件通知書への無期転換ルールに関する記載や対象社員への事前説明をおすすめします。

無期転換に対応するための準備と手順

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無期転換に対応するための準備と手順を紹介します。

無期転換する場合
無期転換する場合は、事前に就業規則の作成や改訂が必要となります。
無期転換後の雇用形態も、雇用期間のみ無期契約とするのか、地域や職種を限定した正社員(限定正社員)とするのか、正社員として転換するのかなども、事前に方針を決めておかないといけません。
その他、申込書や承諾書などの準備も必要です。

有期労働契約のまま雇い続ける場合
通算5年を経過していても、労働者本人から申し出がない場合は、有期労働契約のまま雇用を続けることも可能です。ただ5年を過ぎようとするタイミングでは、無期転換の意向がなかった従業員であっても、あとになって意向が変わることがないとはいえません。

有期労働契約であれ、5年を過ぎて雇用を続ける場合は、無期転換する場合と同様の準備をしておきましょう。

無期転換ルールの実態

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厚生労働省の調査「無期転換ルールに関する論点について」では、無期転換ルールを知らない有期契約労働者が約4割いるという結果が出ています。

一方で、「有期雇用契約からの切り替えを希望する」、または「希望しない」と回答した人は、どちらも約2割で、過半数は「分からない」と答えていますまた、約8割の労働者が「有期雇用契約の時から賃金などの労働条件に変化がなかった」ということが明らかになっています。

上記から、有期契約労働者の間で無期転換ルールの認知度が低いことと、知っていても待遇が変わらないため利用しないと答える人が多いのが現状であることがうかがえます。

無期転換ルールの参考資料

無期転換ルールについて、厚生労働省より発表されている公式情報を、参考資料として紹介します。

・厚生労働省|「無期転換ルール」ハンドブック
https://muki.mhlw.go.jp/policy/handbook2018.pdf

・厚生労働省|多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説
https://muki.mhlw.go.jp/policy/handbook2018.pdf

・厚生労働省|無期転換ルールのよくある質問(Q&A)
https://muki.mhlw.go.jp/overview/qa.pdf

まとめ

無期転換ルールの概要、適用条件、運用上の注意点、対応するための準備と手順などについて、解説しました。

無期転換ルールにはいくつか要件を満たす必要がありますが、例外となるものもあります。特に「5年の通算期間」は、契約期間の間に契約がない期間があるとクーリングが有効となり、リセットされます。また無期転換ルールの対象者にも例外があります。

また、無期労働契約の転換には、有期契約労働者からの申し出が必須となります。無期転換ルールの認知度が4割ほどという現状を踏まえると、無期転換に関するルールを労働契約書に記載したり、労働者に説明したりするなど、企業側の対応も求められそうです。本記事を参考に検討してみてください。

ライタープロフィール
ライター:齋藤 踊
国家資格キャリアコンサルタント、ISO30414リードコンサルタント/アセッサー
人材派遣会社に10年勤務し、うち5年間は支社長としてマネジメントに従事。述べ5000人のキャリア支援を経験。現在も、ライターや講師、キャリアコンサルタントなどの活動をしている。