
労働者派遣法とはどういうもの?背景や禁止事項について解説

人材派遣は、働き方の多様化や有効な人材活用に応えられる働き方です。ただし、派遣労働者を守るため、派遣時のルールが労働者派遣法によって定められています。
違反した場合、処罰を受ける可能性もあるため、人材派遣事業に携わるのであれば、禁止事項を理解しておくことが必要です。本記事では、労働者派遣法の概要や制定された背景、禁止事項、違反時の措置について解説します。
目次
労働者派遣法とは?
労働者派遣法とは、派遣労働者の権利を守ることや、派遣事業の適切な運営を目的として制定された法律です。正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」で、1986年7月に施行され、その後、2012年の法改正で「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等 に関する法律」と正式名称を変更しました。
ここでは、労働者派遣法が制定された背景や、労働者派遣の仕組みについて解説します。
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労働者派遣法が制定された背景
人材派遣の原型は、江戸時代から存在していました。しかし、江戸時代から戦前までの派遣労働は、劣悪な労働環境や賃金の搾取などの不当な扱いを受けていました。その問題を受け「職業安定法第44条」により、民間で労働者派遣事業を営むことが禁止されます。
人材派遣が禁止されてからは、社内の人材不足を補う手段として「業務請負」が普及します。その後、経済の発展とともに、グローバル化や技術革新が進み、新たな人材活用方法を求める声がでてきました。
実際に、派遣事業に近い事業を行っていた会社も存在していたようです。このような世の中の状況に合わせ、適切に派遣事業を運営するために制定されたのが「労働者派遣法」です。労働者派遣法の制定により、派遣事業をビジネスとして営むことが認められました。
労働者派遣の仕組み
派遣労働とは、労働者と人材派遣会社との間で雇用契約を締結し、人材派遣会社は労働者派遣契約を結んでいる派遣先に労働者を派遣する仕組みとなっています。労働者に賃金を支払うのは、人材派遣会社です。
派遣労働者には、以下の3つの雇用形態が存在し、それぞれ仕組みが異なります。

雇用形態 | 概要 |
有期雇用派遣 (登録型派遣) |
・労働者が人材派遣会社に登録し、人材派遣会社が労働者派遣契約を締結している企業に、労働者を派遣する ・派遣期間・雇用期間が定められており、派遣期間が修了すれば一般的に雇用契約は終了し労働者には賃金が発生しない |
無期雇用派遣 (常用型派遣) |
・労働者と人材派遣会社が無期の雇用契約を締結し、人材派遣会社が労働者派遣契約を締結している企業に、労働者を派遣する ・労働者と人材派遣会社で無期の雇用契約があるため、派遣期間が終了しても労働者には賃金が発生する |
紹介予定派遣 | ・直接雇用を前提として、企業が派遣労働者を受け入れる ・期間終了後、企業と労働者の合意があれば、直接雇用契約を締結する |
派遣労働者の受け入れに関する注意点

派遣労働者の受け入れ時には、契約期間の制限や業務指示に関する注意点がありますが、企業や業務担当者の理解不足により、禁止事項に抵触してしまう可能性があります。そのため、人材派遣会社や派遣先企業の理解だけではなく、業務担当者にも禁止事項の理解を徹底することが必要です。
ここでは、派遣労働者の受け入れに関する注意点について解説します。
日雇派遣
日雇派遣は、1日ごとや30日以内の期間を設けて就業することです。日雇派遣は、雇用管理責任が果たされないことが多く、労働災害発生の原因にもなっていました。そのため、原則として1日や1週間といった雇用期間が30日以内の派遣は禁止され、派遣労働者を受け入れる場合は、31日以上の契約が必要になっています。
二重派遣
二重派遣とは、人材派遣会社から派遣された労働者を、さらにほかの企業に派遣することです。例えば、人材派遣会社A社が、労働者を労働者派遣契約を締結しているB社に派遣したとします。この場合、B社の指揮命令に従って就業すれば、問題ありません。
しかし、B社がA社から来た派遣労働者を、C社に派遣した場合は問題です。労働者はC社の指揮命令に従って就業することになりますが、A社とC社は労働者派遣契約を締結していません。
この状況を二重派遣といい、B社は雇用関係のない労働者を派遣することになり、責任の所在が曖昧になるため、違法となるのです。
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同一労働同一賃金
働き方改革により、同一労働同一賃金の原則が定められました。これは、同じ業務に従事した労働者には同等の賃金を支払わなければならないという考え方です。
この考え方は派遣法にも適用され、正規雇用労働者と同等の業務に従事した派遣労働者には、正規雇用労働者と同等の待遇を与えなければなりません。
派遣契約期間の制限
派遣契約期間には制限があります。企業が派遣労働者を受け入れる場合、3年を超えて就業させることはできません。3年後も就業を希望する場合、過半数労働組合に意見聴取を行うか、直接雇用に切り替える必要があります。
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派遣受け入れ時に派遣労働者を特定する行為
受け入れ時に、派遣先企業が労働者を特定する行為も禁止です。具体的には、受け入れ前に面接の実施や履歴書の提出を求めることができません。人材派遣事業は、労務の提供を目的としており、特定の労働者を提供するものではありません。派遣する労働者の選択は、人材派遣会社が候補者の中から適性や能力を評価したうえで決定します。
特定の労働者を選ぶことを避けるため、派遣労働者を特定する行為が禁止されています。
労働基準法や労働安全衛生法などの適用

派遣労働者にも、労働基準法や労働安全衛生法は適用されます。労働者派遣法では、派遣労働者の労働時間に対する管理責任を問われるのは派遣先企業です。そのため、時間外労働時間が、人材派遣会社が定めた36協定の上限時間を超過した場合、派遣先企業が労働基準法違反の対象になります。
派遣契約解除時の留意点
人材派遣会社は、派遣労働者の派遣契約が解除された場合は、新たな就業先を確保しなければなりません。契約解除となった企業の関連会社や、人材派遣会社とつながりのある企業に受け入れてもらえるかどうかを打診する必要があります。
契約を解除した企業も、労働者の雇用確保に向け、協力する必要があります。
離職後1年以内の派遣労働者の受入禁止
派遣先の従業員が離職した場合、1年を経過する前に離職元の企業が、離職した従業員を派遣労働者として受け入れることは禁止されています。例えば、離職後に人材派遣会社と契約してすぐに、離職した企業に当該従業員を派遣することを打診しても、企業は受け入れられません。
これは、本来直接雇用すべき労働者に対し、直接雇用よりも低い労働条件で派遣労働者として受け入れることを避けるためです。ただし、60歳以上の定年退職者の場合は、例外措置として離職後1年以内での受け入れが認められています。
派遣契約書に記載されていない業務の指示
原則として、派遣契約書に記載されていない業務の指示は認められません。人材派遣会社と派遣先企業で締結する派遣契約書には、派遣社員が担当する業務内容を記載することが定められています。
そのため、契約書に記載されていない業務指示を出した場合は契約違反となります。派遣先企業と人材派遣会社の双方で、業務指示の内容確認を徹底することが必要です。
しかし、業務指示を出す担当者が、契約内容を把握しておらず、契約外の業務指示を出してしまうことは珍しくありません。業務指示を出す担当者にも契約内容の理解を徹底することが大切です。
妊娠や出産などを理由とする不利益扱い
男女雇用機会均等法では労働者の妊娠や出産、産前産後休業の取得、厚生労働省令で定められている事由を理由として、企業が労働者に不利益な取扱いをすることは禁止されています。
これは、派遣先企業にも適用されます。労働者の妊娠や出産を理由に、派遣労働者の契約更新を取りやめたり、人材派遣会社に対し派遣労働者の交代を求めたりすることはできません。
偽装請負
偽装請負も禁止されています。偽装請負とは、請負契約を締結した企業に従業員を常駐させ、発注側の業務指示を受けながら就業する行為です。書類上では請負契約をしているにもかかわらず、実態は派遣と同等の働き方のため「偽装請負」といわれています。
請負契約は、委託された業務の成果に対して報酬を支払うものであり、発注者に指揮命令権はありません。もし、請負契約を締結した企業に請負者の従業員を常駐させる場合でも、業務を担当する請負者の従業員の判断で業務を進める必要があります。
派遣先企業が労働者派遣法に違反するとどうなる?

派遣先企業が労働者派遣法違反を犯した場合、以下の措置を受ける可能性があります。
・企業名の公表
・業務停止命令
・罰則
ここでは、それぞれの措置について解説します。
企業名の公表
労働者派遣法49条の2により、派遣労働者を契約外の業務に従事させた場合や、労働者派遣事業許可を得ていない企業が派遣労働者を受け入れていた場合、労働局から違法行為の是正を勧告されます。従わない場合、企業名が公表される可能性があります。
業務停止命令
労働者派遣法49条により、派遣労働者を派遣禁止業務に従事させていた場合、労働局から指導を受けます。指導に従わない場合、派遣先企業に労働者派遣の停止命令が下される可能性があります。
罰則
労働者派遣法61条3号により、派遣先管理台帳の整備や派遣先責任者の選任が適切に実施できていない場合、罰則対象となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
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労働者派遣法の罰則事例:二重派遣の事例
Web制作を請け負うIT企業が、出向と称して派遣労働者を二重派遣したことにより、罰則を受けた事例があります。二重派遣は、業務内容や労災発生時の責任の所在が曖昧になるだけではなく、中間マージンの発生により、派遣労働者に適正な賃金が支払われないといったリスクを抱えている行為です。
そのため、派遣法第24条の2だけではなく、職業安定法第44条でも禁止されています。また、派遣先企業が二重派遣による中間マージン発生で利益を得ていた場合、労働基準法第6条により、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金刑が科せられる可能性があります。
まとめ

労働者派遣法とは、派遣労働者の権利を保護することや労働者派遣事業が適切に運営されることを目的として制定された法律です。派遣労働者の受け入れ時には、契約期間の制限や業務指示に関する注意点があります。
労働者派遣法違反を犯した場合、企業名の公表や業務停止命令、罰則といった措置を受ける可能性があります。派遣業務に携わる以上「禁止事項を知らなかった」では済まされません。
人材派遣会社や派遣先企業の理解だけではなく、業務担当者にも禁止事項の理解を徹底するよう、注意しましょう。
<監修者プロフィール>
松崎 祥子 福岡県出身
法学部卒業後、大手法律事務所、社会保険労務士事務所に勤務。
コンプライアンス対応業務の経験を活かし、総合保険代理店のカスタマーサポートやマーケティングを行う一方
自らも社会保険労務士・行政書士・AFP・宅地建物取引士の資格を取得。