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評価制度とは? 目的やトレンド、種類や作り方などのポイントを紹介

評価制度とは? 目的やトレンド、種類や作り方などのポイントを紹介

評価制度は、従業員の「能力・スキル」や「会社への貢献度」を評価し、報酬や昇格などに反映するために設けられています。適正な人事評価を作成・運用することで、人材育成やモチベーション向上などの効果が見込まれ、業績アップも期待できるでしょう。
ただ、企業側としては評価制度をどのように作ればよいのか、適切に導入・運用するためにはどのような課題があるのかなど、悩みも多いでしょう。

本記事では、評価制度について基本的な内容から、トレンドや種類、作り方、課題、ポイントなど解説します。

評価制度とは

評価制度とは人事制度の1つで、従業員の「能力・スキル」や「会社への貢献度」を評価し、報酬や昇格などに反映するためのものです。
あらかじめ設定された評価基準にのっとり、良い評価をされれば、賃金や役職が上がる仕組みとなっています。また、その他の人事制度と同様に、従業員の定着やモチベーション向上にもつながり、業績にも大きく影響する重要な取り組みといえます。

多くの企業において、評価制度は「報酬制度」や「等級制度」と連動しています。

報酬制度:従業員の等級や評価に基づいて支払われる報酬を決める仕組みのこと。基本給やボーナス、昇給、退職金などを報酬制度というルールにのっとり決定します。

等級制度:従業員のスキルや職務内容、役割、経験年数などに応じて、従業員のグレードやランクを決定する制度。等級ごとに定められている基準に当てはめて、給与や待遇を決定します。

 

評価制度を導入する5つの目的

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評価制度を導入する目的は主に5つあります。それぞれ解説します。

処遇(報酬、昇進・昇格など)を決定するため

評価制度の大きな目的の1つに、処遇の決定があります。
処遇とは、従業員の給与や賞与などの「報酬」、昇進・降等(こうとう)によって決まる「役職や地位」、昇格・降格によって決まる「等級」などのことです。

評価制度の導入によって、明確な基準や根拠をもって、従業員の処遇を決めることが可能になります。また、評価や処遇に対する従業員の納得度向上にもつながるでしょう。

人材育成のため

従業員の能力や業績などについて、適切に評価し、それをフィードバックすることは人材育成にもつながります。
従業員目線でみると、良い評価だった部分はそれを継続・強化し、良くない評価だった点は課題として認識し、それを改善するための行動がとれます。そうすることが従業員の成長になり、人材育成につながるのです。

人材配置を適切に実施するため

評価制度の作成・導入には、適切な人材配置に活用する目的もあります。人事評価を実施し、個人のスキルや能力を把握しておくことで、人事異動や組織編成をする際に、それぞれの組織に適した人材の配置が可能になるでしょう。

経営理念やビジョンなどの浸透のため

経営理念やミッション、ビジョン、バリューなどの浸透は、企業を経営するうえで非常に重要です。経営理念に沿った行動を好評価し、そうでない行動は好評価しないなど、評価制度と連動させることで、経営理念を従業員に浸透させることができるでしょう。

業績向上のため

上記に挙げた4つの目的は、最終的に業績向上に結びつきます。評価制度で従業員に期待する行動と、求める能力を明確にすることによって、業績向上につながるでしょう。

評価制度の種類

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評価制度の種類として、基本的なものを5つ紹介します。

目標管理(MBO,OKR)

評価制度の手法の1つとして、目標管理があります。
目標管理には、「MBO」と「OKR」の大きく2種類あります。それぞれどのような目標管理なのか、その違いも含めて解説します。

・MBOとは
MBOとは、事前に個人やグループが、自ら目標を設定し、それをどれだけ達成したかで評価をする評価手法のことで、「Management By Objectives」の略称です。MBOの評価項目として、「能力開発目標」「職務遂行目標」「業務改善目標」「業績目標」の4つがあります。

メリットとしては、従業員が自ら目標を設定することで、モチベーション向上が期待されます。
デメリットとしては、目標達成の可能性を高めるため、あえて低い目標を設定するケースがあり、目標設定の困難さが挙げられます。だからといって、上司から半ば強制的に目標が設定されると従業員から不信感を抱かれ、MBOの効果が発揮できないこともあります。

・OKRとは
OKRとは、チームや個人が「目標(Objectives)」と、その達成度を計測する「主要な成果(Key Results)」を設定する目標管理手法です。インテル社で誕生し、GoogleやFacebook(Meta)などの大企業で採用され、注目を集めています。

メリットとしては、「目標」と目標達成に必要な「主要な成果」を決めておくことで、従業員が取り組むべきことを明確にできることが挙げられます。
デメリットとしては、目標設定の仕方について従業員への事前説明が不足していると、モチベーションを低下させてしまうこともあります。

・MBOとOKRの違い
たとえば「目標達成の期待水準」について、MBOは100%達成の水準なのに対し、OKRは60~70%達成の水準である点などいくつかあります。
またMBOは評価制度として利用されることも多いですが、OKRは基本的には人事評価に直結させるべきものではなく、組織の生産性の向上が目的とされています。
それぞれ目標管理制度の詳細は、以下の記事を参考にしてください。

関連サイト
MBO(目標管理制度)とは? 目標設定の方法、導入時の注意点、OKRとの違い
https://www.staffservice.co.jp/client/contents/management/column031.html

OKRとは? 設定方法や導入事例を紹介
https://www.staffservice.co.jp/client/contents/management/column029.html

コンピテンシー評価

コンピテンシー評価とは、ハイパフォーマー(高い業績を出す従業員)に共通した行動特性(コンピテンシー)を評価基準とする評価制度のことです。

メリットとしては、評価基準が具体的かつ客観的なので、人材育成の効率化、評価の納得度向上などの効果が期待されることが挙げられます。
一方で、評価項目が具体的であるがゆえに、柔軟に変更することが難しいケースがあります。環境の変化に弱い点はデメリットの1つといえそうです。

関連サイト
コンピテンシーとは? モデルの種類や活用方法と評価・面接に取り入れるメリットを簡単に紹介
https://www.staffservice.co.jp/client/contents/management/column027.html

多面評価(360度評価)

多面評価(360度評価)とは、直属の上司のみならず、同僚や先輩・後輩、部下、他部門の従業員などさまざまな立場の人から多面的に評価をおこなうものです。

メリットは、上司だけでは把握できない側面を補完できたり、上司の一方的な見方が固定化して評価誤差を生む危険性を回避できたりと、評価の正確性や信頼性が担保できるといわれています。また従業員(被評価者)にとっても、複数名から評価を受けることで、納得感が高くなる効果もあります。

デメリットは、上司を評価するときに部下の忖度が入る場合があり、正確な評価がされないことがあります。また、評価をした経験がない従業員に対して評価者研修を実施するなど、教育や説明に労力を要することも挙げられます。

年功序列制度

従来型の評価制度の代表的なものに「年功序列制度」があります。年功序列制度とは、従業員の年齢や勤続年数に応じて、役職や給与を上げていく人事評価制度です。

メリットは、長期的な人間関係構築による一体感の醸成や、離職防止、ジョブローテーションによる育成計画が立てやすくなることなどが挙げられます。
一方で、終身雇用が難しくなってきている現代において、長く会社に在籍していることを高評価する制度は、適さなくなってきていることが指摘されています。

評価制度のトレンド

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評価制度は、時代によって新たな手法が生まれています。ここでは、評価制度のトレンドを3つ紹介します。

バリュー評価

評価制度のトレンドの1つに、バリュー評価があります。
バリュー評価とは、企業が示す経営理念や経営目標、価値観や行動規範(バリュー)などを、従業員一人ひとりについて、どのくらい実践できたかを評価する手法です。仕事の成果ではなく、そこに至るまでのプロセスや行動が、企業のバリューに沿っているかを評価します。
バリュー評価は、企業が大切にしている価値観や行動規範を、浸透させる効果が期待できるでしょう。

ノーレイティング

ノーレイティングとは、「ランク付けをしない」評価制度としてトレンドとなっています。一般的な評価制度は、従業員の成果や行動に対して、S、A、B、Cなどのランク付けをして評価をすることが多いでしょう。ノーレイティングではそれらのランク付けを廃止し、代わりに上司がリアルタイムにフィードバックをおこなうことによって、高頻度で従業員を評価するのが特徴です。

1on1

1on1ミーティングは、上司と部下の1対1で面談をおこないます。日本では、2012年頃にヤフー株式会社が先駆けて導入したことで、トレンドとなりました。1on1ミーティングは、1週間~1ヶ月に1回実施するなど、短い期間で定期的に実施されるのが一般的です。評価をフィードバックする目的だけでなく、部下の成長促進や、キャリア支援、業務上の悩みを相談する場などに活用されています。

評価制度の作り方7ステップ

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ここでは、評価制度の作り方や導入の手順について解説します。主に以下の7ステップとなります。

① 評価制度の導入について現状把握・検討をする

まずは、会社の現状を把握することが必要です。現在の直面している経営や人事制度についての課題を把握するため、従業員へのアンケートや、インタビュー、組織サーベイなどを実施します。それらの結果により、どのような評価制度を導入するかを検討します。
このステップで現場のリーダーや一般社員を巻き込むことで、後述の評価基準策定の精度もアップするでしょう。

② 目的や経営理念に照らして、必要な評価基準を策定する

経営者と現場の管理者などからの課題や要望のヒアリングを通じて、評価制度導入の目的を設定します。「なんのために評価制度を作るのか」「評価制度を作ることでどんなビジョンを実現したいのか」などを明確にする重要なステップです。

③ 従業員の処遇についての規定を策定する

評価制度は、処遇(等級制度・報酬制度)と連動させる必要があります。従業員の処遇についての規定とは、誰が評価をするかといった評価者、評価表の評価区分(S・A・B・C・Dなどのランク)やその定義、それぞれの評価区分における等級や役職の決定の考え方、給与、賞与などの報酬水準のことを指します。

また、これら処遇についての規定を就業規則に盛り込むことも検討が必要です。就業規則への記載方法は、以下を参考にしてください。

※厚生労働省 東京労働局「就業規則の作成例(評価・処遇制度)」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/var/rev0/0146/8674/201512410918.pdf

④ 評価シミュレーションをする

ステップ①~③で策定した評価制度を使って、評価のシミュレーションをします。
シミュレーションの結果、導入前の評価や従来の評価制度の結果と大なり小なりギャップが生じるでしょう。そのギャップによって、当初設定した目的が達成できているのか、必要な部分とそうでない部分はどこなのかを検討することができます。

⑤ 従業員へのアナウンスをおこなう

評価制度を作成したら、従業員が適切に、また納得した状態で運用できるよう従業員へアナウンスします。説明会などを設定し、評価制度を導入した目的、どのような評価制度なのか、どう処遇に反映されるのか、いつから導入されるのかなど周知しましょう。

⑥ 評価制度の運用を始める

評価者、被評価者ともに、適切に運用できているか、導入目的を達成できているかなどをウオッチしていきます。

⑦ 運用後の制度の調整

運用開始後も、設置目的に照らして評価制度を調整する必要があります。導入直後は、目的や経営理念、ビジョンとずれた意図しない評価が生まれる可能性があります。評価制度の精度を向上させるためには、導入後であっても調整・修正していくことが重要です。

評価制度の課題

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ここでは、考えられる主な課題を4つ紹介します。

人事評価に時間を要する

評価制度の導入は、作成者、評価者、被評価者それぞれにとって、大きな時間的負担となります。従業員を適正に評価するための素材集め、そして従業員に納得をして受け入れてもらえるようフィードバックするには、工数や時間が必要になるからです。時間を要することは評価制度の課題の1つになるでしょう。

企業、従業員どちらにも制度が定着しない

評価制度が定着しない場合、その原因は、制度策定の段階で経営層や従業員へのヒアリングが不十分だったり、難しすぎる評価制度になっていたり、従業員へのアナウンスが不十分だったりとさまざまです。作成者は、作るだけではなく、適切に運用・定着させるまでがミッションと認識しましょう。そして、運用状況を把握する調査や、改善のPDCAを回していくことも重要です。

テレワークなどに対応した取り組みが必要

新型コロナウイルスの流行以降、テレワークを導入している企業も少なくないでしょう。
評価制度がテレワークなどの働き方に対応できていないと、課題として表出するケースもあります。たとえば、1on1実施の際は、リモートでもおこなえるツールを用意する、また、日々の業務観察の機会が減ることをカバーするために定量的な評価制度にするなど、対応が必要といえるでしょう。

評価者の価値観や私情で評価基準が変わる

評価制度の課題の1つとして、評価する側のスキル不足があります。さまざまなバイアスや、目的とずれた価値観、好き嫌いなどの私情によって評価基準が変わってしまうことは、評価の妥当性・納得性を担保するためには、避けなければいけません。
しっかりとした評価基準で評価をするために、適切な人材を評価者として選定することや、評価者に対して研修を施すなど、対策が必要になるでしょう。

評価制度のポイント

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評価制度の作り方や、導入・運用するうえでのポイントを3つ紹介します。

評価基準は企業の理念や目標をベースとして、実施前に従業員に内容を共有する

評価基準のポイントは、企業理念や目標、ビジョンなど企業経営における軸となるものをベースとして作成することです。評価基準と、会社の方向性や実現したいことがずれると、会社の希望と異なることを評価せざるを得なくなり、また社員は何を基準にして行動すればよいか、わからなくなってしまいます。

また、評価制度を運用開始する前には、評価者を含めた従業員全員に丁寧にアナウンスし、共有することも重要なポイントです。社員の理解や納得性がない限り、評価制度は機能しないと心得ましょう。

評価制度を作る前に目的を明確にすることで、制度が定着しやすくなる

評価制度を作り始める前に、目的を明確にしておくことは非常に重要なポイントです。評価制度を作るのは、ゴール(目的)ではなく手段です。目的があいまいだと、課題の解決にもなりませんし、効果検証もできません。そのため、「なんのために評価制度を作るのか」、「現状の何を改善し、どうなっていきたいのか」などの目的を明確にし、それを常に念頭に置いたうえで作成するようにしましょう。

相対評価と絶対評価のどちらも組み込むことで、評価者の主観による評価の差が生まれにくくなる

評価の方法には、相対評価と絶対評価の2つがあります。
相対評価とは、他の社員と比較する、また順位付けすることによって評価を決める方法です。評価者が評価をしやすいことや、評価者ごとのバラつきを軽減できるメリットがある一方で、対象人数が少ないと適正な評価がしづらいことや、所属しているグループが変わると評価が変わるなどのデメリットもあります。

絶対評価とは、周囲と比較せずに、個人の能力や成果、目標の達成度合いなどで評価する方法です。絶対評価のメリットとして、評価結果の説明のしやすさや被評価者の納得性の向上などがあります。また、デメリットとしては、評価者によって評価のバラつきが生じてしまう、妥当な評価基準を決める難易度が高い、などがあります。

評価手法は、相対評価と絶対評価のそれぞれのメリット・デメリットを鑑みたうえで、どちらも組み込む形がベターといえます。一例として、1次評価は絶対評価にし、2次評価を相対評価で実施するなどです。
ハイブリッドな評価方法にすることで、評価のバラつきを抑えつつ納得感のある評価ができるなど、評価制度がより良いものになるでしょう。

まとめ

評価制度は、従業員の処遇の決定や、育成、モチベーション向上などにおいて、重要な取り組みです。作り方や導入のポイントとなるのは、作成前に目的を明確にしておくこと、経営理念やビジョンとの連携、運用前の従業員へのアナウンスなどになります。

また、ノーレイティングやバリュー評価など、トレンドを押さえたうえで、自社にどのような評価制度を導入するべきかを検討するとよいでしょう。
これらのポイントを押さえて評価制度を策定・導入するのは時間を要するため、余裕をもって取り組みを始めるようにしましょう。

ライタープロフィール
ライター:こしひかり
国家資格キャリアコンサルタント、ISO30414リードコンサルタント/アセッサー
元お笑い芸人。人材派遣会社に10年勤務し、うち5年間は支社長としてマネジメントに従事。述べ5000人のキャリア支援を経験。現在も、ライターや講師、キャリアコンサルタントなどの活動をしている。