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メンター制度とは?目的やメリット、デメリットを紹介

メンター制度とは?目的やメリット、デメリットを紹介

日本は少子高齢化が進み、2008年をピークに人口減少時代が始まっています。新入社員の3~4割が3年以内に離職する傾向も止まらず、定着率の向上は企業における重要な課題となっています。メンター制度は、新入社員を精神的にサポートし、定着率を高める人材育成の方法です。本記事では、メンター制度の基礎知識、他の人材育成方法との違い、メンター制度の目的や導入するメリット・デメリット、導入までの流れや運用する上でのポイントを紹介します。

メンター制度とは

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メンター制度とは、先輩社員が新入社員に定期的に面談をおこない、不安や悩みを聞いて精神的なサポートする人材育成の方法です。新入社員に限らず、若手社員や新人マネージャーを対象におこなう場合もあり、新入社員の定着率を高める効果や、社員同士のコミュニケーションを活性化する効果が期待できます。

メンター、メンティ、メンタリング

メンター(mentor)には、「指導者・助言者」という意味があります。企業におけるメンターとは、新入社員の相談に乗り、精神的なサポートをする役割を担う先輩社員のことを指します。メンターに任命されるのは、新入社員と年齢の近い、入社3~5年目の先輩社員が一般的です。

一方、助言を受ける立場の新入社員や若手社員は「メンティ」と呼ばれています。メンティ(mentee)には、「被育成者」という意味があります。

メンターがメンティを指導し、精神的なサポートや助言をおこなうことを「メンタリング」と言います。メンタリングは、人材育成の手法のひとつとして多くの企業で導入されています。

エルダー制度との違い

メンター制度とよく似た人材育成の方法に「エルダー制度」があります。エルダーとは「先輩」を意味する言葉で、エルダー制度は先輩社員が新入社員におこなうOJTの一種です。直属の上司ではなく、実際に仕事を一緒にする先輩社員が新入社員を指導することで早期成長を促します。

メンター制度も、直属の上司ではなく先輩社員がマンツーマンで指導をおこなう制度ですが、他部署の先輩社員がメンターに選ばれることが一般的で、メンタル面のサポートを担うことが主な役割です。

エルダー制度は業務面のサポートを中心におこない、新入社員を即戦力として活躍させることが主な目的となっているため、メンター制度とは期待されている役割や対象となる社員が異なります。

コーチング・ティーチングとの違い

人材育成の方法には、「コーチング」や「ティーチング」もあります。コーチングは指導者が対象者の目標やゴールに向けて支援すること、ティーチングは指導者が対象者に教育をすることです。どちらも基本的には1対1で指導する人事育成の方法であるため、その点ではメンター制度と共通しています。

ただし、メンター制度とは指導する内容が異なります。コーチングやティーチングは業務における指導であるのに対して、メンタリングの対象は仕事や人生など多岐にわたります。メンター制度では、不安や悩みなど、新入社員のメンタル面のサポートが重要な役割となります。

メンター制度の目的

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メンター制度の目的は、新入社員の不安や悩みを解消し、離職率を低下させることです。なぜメンター制度が必要なのか、近年における離職や新入社員の相談相手についてのデータを見てみましょう。

新入社員の3~4割が3年以内に離職

厚生労働省の発表によると、令和5年度における就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が約4割(37.0%)、新規大卒就職者は約3割(32.3%)となっていました。例年に比べ低下していますが、依然として新入社員の3~4割は3年以内の早期離職に至っています。そのため、メンター制度の離職率低下や定着率向上といった効果に高い期待が寄せられています。

新入社員に指導・アドバイスをおこなわない企業は2割以上

日本労働組合総連合会による「入社前後のトラブルに関する調査2022」によると、回答者(1,000名)に、卒業後に最初に就職した会社で、入社後、新入社員研修や上司・先輩からの業務についての指導・アドバイスはあったか聞いたところ、「十分にあった」は 35.9%、「ある程度はあった」は 43.1%、「あった」の合計は 79.0%でした。一方、「まったくなかった」は 6.1%、「あまりなかった」 は 14.9%で「なかった」の合計は21.0%でした。

多くの会社で新入社員研修や業務についての指導・アドバイスが実施されている一方、2割の会社では十分におこなわれていないようです。定着率の向上には、新入社員への指導・アドバイスは不可欠です。


参考資料:日本労働組合総連合会「入社前後のトラブルに関する調査2022」

新入社員の約8割が「家族・友人」に相談

また、上記の調査では全回答者(1,000 名)に、新入社員が勤め先において不安や悩みを相談したい場合、誰に相談するかを聞いたところ、 「家族・友人」(79.6%)が最も高い結果となっていました。次いで高いのは「勤務先の上司・同僚」(34.4%)。他には「勤務先の相談窓口(総務・人事)」「SNS(Twitter・Facebook など)を利用」(いずれも 6.8%)が挙げられていました。


参考資料:日本労働組合総連合会「入社前後のトラブルに関する調査2022」

新入社員が不安や悩みを相談できる相手は、「家族・友人」が約8割もの圧倒的多数を占めています。これは多くの新入社員が社内に相談できる相手がいないことを示す結果と言えるでしょう。新入社員の離職理由として挙げられる「相談相手がいない」「社内での孤立感」が起こらないよう社員同士のつながりを増やしてサポートできる環境を作り、定着率を高めることがメンター制度の重要な役割です。

メンター制度のメリット

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メンター制度は、企業にとっても、メンター(新入社員を指導する先輩社員)にとっても、メンティ(指導を受ける新入社員)にとっても、さまざまなメリットがあります。それぞれ見てみましょう。

企業のメリット

新入社員は、会社や組織などの新たな環境に馴染んでいないため、1人で不安を抱え込むことが少なくありません。仕事や人間関係、職場環境など多くの悩みを抱えています。メンター(指導者・助言者)をつけ、新入社員が不安や悩みを相談しやすい環境を作ることによって定着率の向上が期待できます。

・先輩社員の指導能力の向上
先輩社員も新入社員のメンターとなることで指導能力の向上が期待できます。人材育成は、管理職にとって重要なスキルのひとつです。新入社員の不安や悩みを聞き、適切なアドバイスを送ることによって、先輩社員自身も成長し、将来管理職として活躍するためのマネジメント力を磨くことができます。

・社内環境の風通しを良くする
エルダー制度やOJTは同じ部署の先輩社員が指導することが多いのに対して、メンター制度は他部署の先輩社員がメンターとなるのが一般的です。部署の異なる社員同士が交流することで、組織の壁を越えた人間関係が築かれ、社内環境の風通しが良くなることが期待できます。

・社内コミュニケーションの活性化
メンターを担当する先輩社員は、新入社員の上司や先輩社員とも緊密なコミュニケーションを取ることが必要となります。部署の異なる社員同士が「新入社員の育成」という同じ目的を持つことによって、社内コミュニケーションの活性化が期待できます。

・離職率の低下
メンター制度には、メンターとメンティの絆が生まれることでエンゲージメント(愛社精神)が高まる効果があります。また、他部署の先輩社員との交流によって新入社員の視野が広がり、組織に対する理解を深めることができます。そのため、離職率の低下を実現しやすい環境にすることが期待できます。

メンターのメリット

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・自身のコミュニケーションスキルも向上する
新入社員の不安や悩みを聞き、適切なアドバイスをするためには、傾聴力や伝達力、共感力、動機づけなどさまざまな能力が必要です。メンターを務めることで自身のコミュニケーションスキルも向上します。

・先輩社員としての責任感が高まる
メンターは入社2~3年目のキャリアの浅い先輩社員が担当することも珍しくありません。年齢の近い新入社員を指導することで、先輩としての自覚が芽生え、仕事に対する責任感が強くなります。

・管理職になったときにメンター経験を活かせる
管理職に昇進すると、部下の育成が重要なミッションとなります。キャリアの浅いうちから新入社員を指導することは、人材育成の視座を育み、将来マネージャーになったときに活かすことができます。

メンティのメリット

・不安や悩みを相談できる
環境が変わると、誰もが不安や悩みを抱えるものです。社会人になったばかりの新卒社員ならなおさらでしょう。メンター制度によって相談相手ができることで、不安や悩みを1人で抱え込まずに済みます。

・職場に早く馴染める
新入社員の早期離職の理由のひとつに、職場における孤立感があります。「入社前後のトラブルに関する調査2022」で相談できる相手が「家族・友人」が約8割となっていたのは、その表れでしょう。社内に相談できる先輩ができることによって、新入社員は会社に馴染みやすくなり、孤立感を抑えることになります。

・会社に対する理解が深まる
新入社員は、会社の全体像をなかなか把握することができません。他部署の先輩がメンターになることによって、自部署の上司や先輩以外との交流が生まれ、会社に対する理解が深まります。また、組織における自部署や自身の役割も把握しやすくなります。

メンター制度のデメリット

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メンター制度には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットもあります。メンター制度を導入する際には、以下のポイントに留意し、対策を講じた上で運用することが重要です。

企業のデメリット

・先輩社員の業務負担が増える
メンターを担当することで、先輩社員の業務負担が増えます。メンターを務める期間は業務量を軽減する、繁忙期は避ける、周囲がフォローするなど、メンターのサポートをする仕組みが必要です。

・相性が悪いと双方の離職を促してしまう
新入社員の離職理由として特に多いのは「人間関係」です。メンターとメンティの相性が悪いと双方の離職を促します。両者のパーソナリティをできる限り把握し、メンターの人選は慎重におこないましょう。

・先輩社員の指導能力によって効果が変わる
メンター制度は、メンターを担当する先輩社員の指導能力によって効果が左右されます。事前に研修をおこなうなど、新入社員の良き相談相手としてキャリア形成の支援をする方法を指導することが必要です。

メンターのデメリット

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・プラスアルファの負荷がかかる
メンターは、新入社員のフォローをすることで通常の業務以外にプラスアルファの負荷がかかります。メンター業務に積極的に取り組むためには、周囲のサポートが必要です。

・自身の評価につながらない
人材育成が人事評価の基準になっていない企業では、メンターを担当しても先輩社員自身の評価や給与が上がらないことがあります。メンターを担当し、新入社員のサポートをおこなった先輩社員はプラスの評価をするなど、評価基準や人事制度の見直しをすることが必要です。

メンティのデメリット

・メンターの指導能力に左右される
メンターの指導能力には、個人差があります。同期から他のメンターの話を聞き、メンティが不満や不公平を感じる場合もあります。そうした事態を避けるためには、事前研修で共通の指導方法を伝える、一定のレベルに達した先輩社員のみをメンターに任命するなどの対策が必要となります。

・メンターと相性が合わないとストレスが増す
メンターと相性が悪いと、メンティは精神的なストレスが増します。新入社員と先輩社員のマッチングは慎重におこなう必要がありますが、必ずしも上手くいくとは限りません。新入社員がメンターに不満や疑問を持った場合に備え、同じ部署の上司や先輩にも相談できる環境を作っておくことが重要です。

メンター制度導入までの流れ

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メンター制度は、次の4つのステップで進めていきます。メンター制度導入の流れを見てみましょう。

STEP.1 対象者の選定(メンター・メンティ)とマッチング

対象となるメンター(先輩社員)とメンティ(新入社員)を選定し、マッチング(組み合わせ)を決めます。選定方法には、指名・自薦・他薦があります。マッチングをおこなう際は、事前にメンター・メンティ双方に関する個別の情報をアンケートやヒアリングなどで収集し、ミスマッチを防ぎます。

STEP.2 事前研修の開催

メンター・メンティに対して事前の研修を開催します。研修の目的は、以下の3点です。
・お互いの役割や期待、行動を事前に明確にして、誤解や混乱を防ぐ
・効果的なメンタリングになるよう、互いに必要なスキルを身につける
・メンタリングを通じて問題が起きた場合の対処方法を伝える

STEP.3 メンタリングの実施

メンタリングの実施中は、次のような方法でメンター・メンティ双方に進捗フォローをおこないます。
・実施状況を把握するため、メンター・メンティに報告を求める
・メンティ同士の意見交換会を開催し、メンタリングの成功例や課題について情報を共有する
・上司の協力のもと、メンティの職場全体で育成を支援する環境を作る

STEP.4 振り返りと改善に向けた課題の整理

メンタリング終了後は、実施内容を振り返り、次のような方法で改善に向けた課題を整理します。
・対象者双方にヒアリングやアンケートを実施し、良かった点、困った点、改善点などを把握する
・合同報告会を開催し、仕事や意識面での変化、気づきなど、結果について社内で共有する

メンター制度を運用する上でのポイント/注意点

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メンター制度を運用する上で、特に注意しなければならないのは、次の2つのポイントです。

メンター、メンティに対するフォロー

メンターは通常の業務にプラスしてメンティのサポートをするため、業務負荷が高くなります。メンティは、メンターとの組み合わせにミスマッチが生じた場合、さらなるストレスを抱えます。メンターに対しては業務上のフォロー、メンティに対しては所属部署による精神的なフォローが必要です。

メンター、メンティのミスマッチ

同じ部署の先輩社員をメンターにすると、今後の関係性などを配慮し新入社員が不安や悩みを率直に打ち明けにくくなります。利害関係の薄い他部署の先輩社員をメンターにすることが、成功の秘訣です。

まとめ

新入社員の3~4割が3年以内に離職してしまうことは、長年にわたる企業の課題です。近年は実力主義や成果主義を取り入れることで、若手にとって働きやすい環境を作る企業が増えている反面、孤独感や疎外感から早期離職に至ってしまう新入社員も少なくありません。不安や悩みの解消、良好な人間関係の構築、風通しの良い職場環境を作ることは、新入社員のエンゲージメントを高めます。新入社員の孤立感を解消し、定着率を高める効果が期待できるメンター制度を活用してみてはいかがでしょうか。


《ライタープロフィール》
ライター:鈴木にこ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。