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【2022年4月改正】在職定時改定とは?改正前との違いや企業が実施すべきことを解説

【2022年4月改正】在職定時改定とは?改正前との違いや企業が実施すべきことを解説

2022年4月に施工された年金制度改正法の中で新たに在職定時改定が創設され、毎年10月に在職中の65歳以上の年金受給者について老齢厚生年金額が改定されることになりました。

以前は退職するか70歳になるまで年金額は改定されておらず、在職定時改定により年1回、働きながら支払った保険料が年金額に反映されることになります。この記事では、在職定時改定の意味や創設の背景、企業が実施すべきことについて解説します。

在職定時改定とは

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2020年5月に成立した年金制度改正法が2022年4月に施行されました。この年金制度改正法の中で、新たに創設されたのが在職定時改定です。

在職定時改定は、65歳以上70歳までの在職中の老齢厚生年金受給者について、老齢厚生年金額が毎年10月に改定されるものになります。つまり、在職定時改定とは65歳以上の「在職」時に、厚生年金額を「定時」に「改定」するという意味になります。

この在職定時改定により、働きながら年金を受給している65歳以上の方の厚生年金額が改定されることになります。これまでは、65歳以上の労働者は厚生年金を受給しつつ厚生年金保険料を支払っており、65歳以上で支払った保険料が厚生年金額に反映されるのは労働者が会社を退職してからでした。

しかし、在職定時改定の創設によって厚生年金保険料が厚生年金額に反映されるので、働いている65歳以上の方にとってはメリットとなるわけです。

適用外の老齢厚生年金

在職定時改定は、その年の9月1日に厚生年金保険被保険者である65歳以上70歳までの労働者が、基準日(9月1日)が属する月前の厚生年金保険加入記録に従って老齢厚生年金額が改定されるというものです。

ちなみに、在職定時改定が適用されるのは65歳以上70歳になるまでの「老齢厚生年金」、65歳以降の老齢基礎年金や70歳を過ぎてからの「老齢厚生年金」などは適用外となります。

老齢厚生年金の計算方法

在職定時改定に伴い、在職老齢年金のおおよその計算方法を紹介しましょう。「基本月額と総報酬月額相当額」がいくらなのかで計算方法が異なるので分けて説明します。

まず、基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円以下の場合は全額支給されます。
一方、基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円を超えると、一部または全額が支給停止となります。具体的な算出方法は以下の通りです。

基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2
 

加給年金はどうなる?

これまでは配偶者加給年金も含め、年金を見直すタイミングは退職時か70歳到達時だけでした。しかし、在職定時改定により2022年4月以降は年金の見直しが毎年おこなわれるよう変更されました。

配偶者加給年金の対象かどうかも毎年確認されるため、これまでより受け取りやすくなっています。働いているからといって、配偶者加給年金の決定は先延ばしになりません。

在職定時改定の背景

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そもそも、なぜ2022年4月より在職定時改定が創設されたのでしょうか。その背景として、高年齢者雇用安定法の施行などの影響で、70歳までの継続雇用が努力義務となったことが挙げられます。

在職定時改定の創設前まで、65歳以上の労働者が支払った厚生年金保険料が厚生年金額に反映されるのは会社の退職後でした。しかし、高年齢者雇用安定法の施行で70歳までの労働者を継続雇用する企業の努力義務を果たすために、在職定時改定の創設が必要となっています。退職後を待たず65歳以上の労働者の厚生年金額に反映されるので、企業は70歳まで継続雇用しやすくなりました。

また、65歳以上から70歳まで働く労働者側の観点でも在職定時改定の創設は必要とされていました。70歳までの雇用継続が企業の努力義務といっても、労働者に働くモチベーションが低ければ65歳以降は働かないかもしれません。

ところが、在職定時改定により、年1回、在職中から厚生年金額の改定がおこなわれることになります。これにより労働者の経済面へのサポートとなり、働き続けるモチベーションを引き出すことができるのです。

つまり、高年齢者雇用安定法の施行により、企業に対して70歳までの継続雇用が努力義務となったことで、企業と65歳以上の労働者の双方で在職定時改定の必要性が出てきたということがいえます。

改定前との違い

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2022年4月施行の在職定時改定によって、改定前後で老齢厚生年金の仕組みにはどのような違いがあるのでしょうか。改定前と改定後に分けて確認していきます。

改定前

厚生年金被保険者だった人が65歳以上になると、老齢厚生年金が支給されます。支給額は支払った保険料に応じ老齢基礎年金に加えて計算します。

在職定時改定前は、退職または満70歳になった際に厚生年金被保険者資格を喪失したことによって、厚生年金額が改定されていました。つまり、在職中にいくら厚生年金保険料を支払っていても、在職中の年金額が変わることはなかったのです。退職後の資格喪失によって年金額が改定される仕組みを退職時改定といいます。

65歳以上も継続して働いている厚生年金受給者にとっては、年金額に反映されるのは退職するか70歳を待つしかありませんでした。そのため、働く高齢者としてはせっかく厚生年金保険料を支払っているのに、年金額に反映される時期が遅いため労働意欲をそがれる原因となっていました。

改定後

高年齢者雇用安定法の施行によって、企業に70歳までの継続雇用の努力義務が課されたことを背景として在職定時改定が創設されました。在職定時改定により、2022年4月以降は65歳以上で働きながら厚生年金保険料を支払っていて厚生年金受給がある人へ、毎年決まった時期に老齢厚生年金額が改定されることとなっています。

毎年の決まった時期とは、1年に1回の10月です。9月1日時点で厚生年金被保険者であり、8月までの厚生年金加入実績に応じて10月から年金額が改定されることになります。在職定時改定により、改定後の支給額は毎年10~12月の間におこなわれます。

65歳以上で働く人にとって、経済基盤の充実は重要です。在職定時改定の創設によって、厚生年金保険料を支払った額の反映が毎年決まった時期におこなわれることになりました。該当者はこれにより生活の安定化が図られ、改定前よりも安心して働けるかもしれません。

在職定時改定で企業が実施すべきこと

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最後に、在職定時改定の創設によって企業が実施すべきことを確認していきます。65歳以上の労働者に対して、企業はどのような施策を講じていく必要があるでしょうか。

65歳以上の従業員がモチベーションを維持して働きやすい環境作り

高年齢者雇用安定法の施行により、企業には労働者を70歳まで継続雇用することへの努力義務があります。在職定時改定は、働く高齢者のモチベーションを維持することを一つの目的としています。

しかし、モチベーションを維持しなくては、企業が「70歳まで働いてもらおう」と思っても高齢者が働き続けてくれないかもしれません。そのため、在職定時改定をきっかけに、企業は65歳以上の労働者のモチベーションを維持して働きやすい環境を作っていく必要があるでしょう。65歳以上の労働者に対するモチベーションの維持には、以下のような施策が考えられます。

・人事評価制度の導入
・昇給制度の導入
・キャリアコースの導入

人事評価制度の導入

「人事評価制度の導入」は、65歳以上の労働者にも人事評価制度の仕組みを入れるということです。高齢者にも人事評価制度の仕組みを取り入れることで、モチベーションの維持を図ることにつながります。

高齢者に求める評価項目や目標などは、現役世代の正社員と異なることが多いでしょう。そのため、65歳以上の労働者向けに評価項目や目標を設計し直します。たとえば、長年培ってきた技術力を元に後進を指導する高齢者には、「後進育成」の観点で評価項目や目標を設定・評価します。

人事評価については、定年前と定年後で違った仕組みとすることが多いでしょう。そのため、人事評価制度も定年前と後で異なる仕組みを導入することになります。定年後は65歳以上もフォーカスした内容とします。

昇給制度の導入

「昇給制度の導入」も65歳以上の労働者のモチベーション維持につながります。評価制度と同様に、定年前と定年後で異なる仕組みとして、65歳以上にも対象を広げる内容がおすすめです。なお、昇給制度の導入は、人事評価制度とセットで検討すると良いでしょう。なぜなら、昇給額の決定の根拠を人事評価結果とすることで、労働者にも納得してもらいやすくなるからです。

ただし、昇給制度を定年以降にも続けるだけでは、人件費がかさむ一方となります。そのため、昇給制度の導入により膨らんだ人件費の原資をどうするかが課題です。定年以降の労働者の人件費の調整で原資を作ることができれば導入しやすいでしょう。しかし、現役世代の人件費も調整することになると、正社員の報酬制度も見直さなくてはならないため手間がかかります。定年前と後の昇給額のバランスを考慮しながら、昇給制度によるモチベーションの維持を検討すると良いでしょう。

また、後述するように、高所得の労働者からは雇用契約内容見直しを希望されることもあります。そのため、昇給額をシミュレーションしながら昇給制度を決めていくことが適切といえるでしょう。

キャリアコースの導入

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キャリアコースを導入することで、65歳以上の労働者も意欲をもって働くことができるかもしれません。キャリアコースは、定年後に運用できる仕組みとします。たとえば、スペシャリストコースとスタッフコースにコースを分け、技能がある人材はスペシャリストコースに進み技能伝承に励んでもらいます。そして、それ以外の人材はスタッフコースに進むイメージです。

雇用契約の内容見直しに対する準備

65歳以上の労働者に対する働きやすい環境作りを検討すると共に、雇用契約の内容見直しに対する準備も進めましょう。なぜなら、老齢厚生年金をもらいながら働いていると、65歳以上の労働者から雇用契約の内容見直しを希望されることがあるためです。

見直しを希望される理由は、給与が高い65歳以上の労働者は厚生年金額が減らされる場合があるためです。計算方法の項で記載しましたように、65歳以上の労働者のうち「基本月額+総報酬月額相当額の合計額」が47万円を超えると、47万円を超えた額の2分の1の年金額が支給停止されます。年金額が支給停止されない金額まで、雇用契約内容の見直しに対応できるように準備をしておく必要があるでしょう。

まとめ

2022年4月施行の在職定時改定の創設によって、毎年1回、65歳以上の働く厚生年金受給者には年金額の改定がおこなわれるようになりました。在職定時改定によって、高齢者の就業意欲を損ねることなく働いてもらうことができるでしょう。

企業の担当者は、在職定時改定の影響による雇用形態の変更手続きなどにスムーズに対応ができるよう、今のうちから準備しておきましょう。

・ライタープロフィール
山崎英理夫(人事コンサルタント)
人事コンサルタントとして教育研修のプログラム開発、人事制度診断等を提供。また、企業人事として新卒・中途採用に従事し、人事制度構築や教育研修の企画・運用など幅広く活動。この経験を活かし、人材関連の執筆にも数多く取り組む。