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2021年は2回改正。労働者派遣法の改正内容とは?

2021年は2回改正。労働者派遣法の改正内容とは?

2020年に「同一労働同一賃金の実現」に向け、労働者派遣法の改正がおこなわれました。これは近年の働き方改革の推進が大きく関わっており、派遣スタッフの待遇をより良いものにしようとする考え方によるものでした。

続く2021年、さらに労働者派遣法は1月と4月の2回に分けて改正されました。今回は従来の取り決めでは曖昧になっていたルールを明確化されているため、適正な運用ができているのかを把握しておくことが求められています。

今回は、そんな2021年に2回改正された労働者派遣法について解説します。

2021年1月の労働者派遣法改正

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2021年1月におこなわれた労働者派遣法改正により、以下の4点が変更されます。

派遣スタッフの雇入れ時の説明の義務付け


派遣元事業主が実施する「教育訓練」および希望者に実施する「キャリアコンサルティング」の内容について、派遣スタッフの雇入れ時に教育訓練計画の説明をすることが派遣元事業主に義務付けられました。

派遣スタッフはひとつの職場で長期間にわたって勤務することが難しく、ひとつのスキルを着実に習得することができませんでした。キャリアコンサルティングについては2015年の改定時に義務化されていましたが、受講率は芳しくないといわれています。実際に「派遣スタッフのキャリア形成をサポートする」とうたいながら、説明がおこなわれていないことも多く、政府は改善をひとつの目標としていました。しかしキャリアコンサルティングを受けた方からは効果を実感している声も多く聞かれており、派遣スタッフのキャリア形成には有効といえます。

今回の改正により、派遣元が教育訓練やキャリアコンサルティングをおこなうことで、派遣スタッフはキャリア形成に関する悩みを解決したり、自身の今後のビジョンを明確に持てるようになりました。

派遣契約書の電磁的記録を認める


これまで派遣元管理台帳や派遣先管理台帳、派遣スタッフ個人と結ぶ労働契約については電磁的記録が認められていたものの、派遣元と派遣先が交わす労働者派遣契約については書面での交付が義務とされていました。しかし、今後は電磁記録により作成することも認められます。

派遣契約は数ヶ月ごとに更新されることが一般的ですが、今回の改正によって労働者派遣契約も電磁記録でのやりとりが可能になったため、その都度書面を用意する必要がなくなりました。書類への記入や押印にかかる時間が削減されるため、業務効率をアップできるだけでなく、ペーパーレス化も実現できるでしょう。

派遣先における、派遣スタッフからの苦情の処理


これまでは派遣スタッフから就業中の苦情があった際、派遣元の企業が対応するのが一般的でした。しかし改正後は、派遣先企業も同じく対応が求められるようになります。

この労働時の苦情とは、以下のようなものが挙げられます。
・労働基準法に準ずる内容
・労働安全衛生法
・育児休業
・介護休業

日雇い派遣であっても契約解除に対する休業手当の支払を厳格化


もともと日雇派遣は、責任の所在が派遣先企業・派遣会社ともに明確ではないという理由から原則として禁止されているものの、職種や年収、年齢などの要件から、例外として認められており、一定の需要があることも事実でした。

日雇い派遣において、派遣元や派遣先の都合など、派遣スタッフ側の問題(遅刻や欠勤、債務不履行等)以外の理由で派遣契約が解除された場合、派遣元は、派遣スタッフに対し新たな就業機会の確保ができない場合は、休業を行って雇用の意地を図るとともに、休業手当の支払い等、労基法等の責任を果たすべきであるということが明確になりました。

2021年4月の労働者派遣法改正

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さらに2021年4月からは、以下の2項目の改正が施行されます。

雇用安定措置について派遣労働者の希望の聴取


派遣元事業主は、雇用安定措置を講ずる際、派遣スタッフの希望する措置の内容を聴取し、その内容を派遣元管理台帳に記載する義務が発生するようになりました。この派遣元管理台帳とは、派遣元事業主が適切に派遣スタッフの雇用管理をするため、事業所ごとに作成が義務付けられた帳簿を指しています。

そして雇用安定措置とは、同一の組織に3年間派遣されることが見込まれている派遣スタッフに対し、派遣元事業者に義務付けられるものです。2015年の改正ですでに取り入れられていましたが、雇用安定措置がさらに適切なものになるよう派遣スタッフの声を直接聞くことになりました。

厚生労働省の調査によれば、雇用安定措置について派遣元から相談された派遣スタッフは38.6%に留まっています。希望に応じた措置を講じる点では現時点で課題が残っていますが、改正とともに雇用安定措置のあり方について考える必要があります。

マージン率等のインターネットによる開示の原則化


派遣法第23条第5項の規定より、派遣元事業主は、情報提供の義務がある情報をすべて、適切な方法で提供することになりました。

派遣元事業者に情報提供義務が課せられた4つの情報について、適切な方法で明示することが原則求められるようになりました。この情報提供の適切な方法とは、「事業所への書類の備付け、インターネットの利用・その他の適切な方法(パンフレットの作成等)により行うこと」、「マージン率は、常時インターネットの利用により広く関係者、とりわけ派遣労働者に必要な情報を提供することを原則とすること。」「情報提供は、少なくとも、毎事業年度終了後可能な限り速やかに前年度分の実績を公表すること」とされています。

・労働者派遣事業所ごとの当該事業に係る派遣スタッフの数
・労働者派遣の役務の提供を受けた者の数
・派遣料金のマージン率
・教育訓練に関することや業務に関して関係者に知らせることが適当とされる厚生労働省令で定める事項

労働者派遣法改正に向けできること

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労働者派遣法は改正が続いていますが、内容を把握できずに違反となってしまうと、違反内容によって30万円以上の罰金や1年以下の懲役といった重い罪が課せられます。そのような事態を防ぐよう、企業側でできることを把握しておきましょう。

ペーパーレス化


労働者派遣契約に関する書類の電子化をきっかけに、ペーパーレス化に取り組む企業も増えることが見込まれます。ペーパーレス化はコスト削減やセキュリティ強化をはじめ、さまざまなメリットがあります。これを機に、事業所全体でペーパーレス化を検討するのも良いでしょう。

苦情の処理


派遣スタッフから受けた苦情について、派遣先の企業側は内容を派遣元に共有し、解決に向かうよう対応しなければなりません。

派遣スタッフから聞いた意見は、そのほかの派遣スタッフが抱く不満にもつながりやすい可能性があります。苦情について派遣先だけで対処できない場合、派遣元にも協力を仰ぐために受けた苦情の内容を派遣元台帳に記録、共有しておきましょう。

まとめ


2020年に引き続き、2021年の労働者派遣法は派遣スタッフを守るために改正されました。今後、著しい少子高齢化により労働人口が減少する背景から、ひとりでも多くの労働者が働きやすい環境を整えるのが求められています。

労働者派遣法の改正内容を把握し、トラブルを回避するためにも企業側でできることに取り組んでいくよう注意しましょう。