扶養内で勤務とは? メリットデメリットや年収の壁の注意点を解説

扶養内で勤務とは? メリットデメリットや年収の壁の注意点を解説

「扶養内に収めるには、収入をどれくらいにすればいい?」と悩む人は少なくありません。「扶養」と一口にいっても、税金の話か、社会保険の話かによってボーダーラインは変わります。また、扶養内で働くとメリットだけでなくデメリットもあります。さまざまな「年収の壁」による影響や注意点について、詳しく説明します。

扶養内勤務とは?

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扶養内勤務とは、税金や社会保険のルール上の「被扶養者」として働くことを意味します。収入を一定以内に収めて扶養内勤務をすることで、税金や社会保険料の負担を抑えることができます。

税金のルールでは、配偶者を扶養している場合は「配偶者控除」または「配偶者特別控除」を、16歳以上の親族を扶養している場合は「扶養控除」を使えます。これにより扶養している人の課税対象となる所得が減り、納税金額が下がります。今回の記事では、配偶者から扶養されているケースを想定して説明をします。

次に社会保険のルールでは、扶養内勤務をすると社会保険料の支払いが免除されます。日本では誰もが社会保険に加入する必要があり、健康保険料や年金保険料を負担するのが原則です。しかし社会保険の扶養に入ると、これらの社会保険料を支払う必要はありません。

ここで気をつけたいのは、税金と社会保険の扶養の基準が違うことです。そのため、社会保険の扶養に入っていても、税金の扶養からは外れるということがありえます。この点については、後ほど「年収の壁」として詳しく説明します。

扶養内と扶養外はどちらが得? 扶養内で働くメリットとデメリット

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扶養内勤務にはメリットだけでなくデメリットもあります。仕組みを理解して、自身の働き方を考えることが大切です。

扶養内で働くメリット

扶養内で働く第一のメリットは、扶養する人の税負担が減る点です。たとえば夫が妻を扶養する場合、配偶者控除か配偶者特別控除を利用でき、夫の所得税(復興特別所得税を含む。以下同じ)や、住民税の負担が減ります。

扶養内で働くには収入を抑える必要があるので、扶養されている人の所得税や住民税の負担がなくなる点もメリットといえます。詳しくは後述しますが、年収98万円以内に収めると、所得税と住民税はかかりません。

さらに、扶養されている人の社会保険料の負担が免除されることもメリットです。社会保険料は大きく健康保険料と年金保険料に分けられますが、扶養内勤務であればいずれの保険料もかかりません。

しかも、社会保険料の負担がなくなっても、最低限の社会保障は受けられます。扶養内勤務の場合、扶養している人の勤務先の健康保険証を使えるので、医療費が原則3割となり、高額療養費や出産育児一時金などを受けられます。年金についても、「国民年金第3号被保険者」として扱われ、国民年金(老齢年金・障害年金・遺族年金)の給付を受けられます。

扶養内で働くデメリット

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扶養内で働くと、税金面のデメリットはありませんが、社会保険におけるデメリットがあります。まず健康保険については、健康保険組合からの給付が一部制限されます。たとえば、病気やケガなどで仕事を休んだ場合の傷病手当金や、出産にともなう出産手当金は、扶養内勤務をしている人には支給されません。病気や出産などで仕事を休んだとしても手当金がないので、家計の収入は下がってしまいます。

また、年金についても注意が必要です。前述のとおり、扶養内勤務をしている人は国民年金第3号被保険者として国民年金を受け取れますが、その金額は厚生年金よりも低くなります。厚生労働省の「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の受給額の平均が月額約14万円であるのに対し、国民年金は5万円ほどです。

自営業者も厚生年金ではなく国民年金を支給されますが、付加年金や国民年金基金という制度を利用して自ら年金を増やせます。しかし、扶養内勤務で国民年金第3号被保険者になっている人は、これらの制度を使えないので、老後の生活資金などが不足するおそれがあります。さらに、扶養内で働こうとすると収入や労働時間を抑える必要があるため、正社員として働き続けることが難しくなります。

扶養内と扶養外はどちらが得?

扶養内で働く場合、税金や社会保険料の出費を抑えて働くことができます。しかし、年収や働き方によっては扶養外の方が世帯収入を増やせるケースがあるため、現在の就労状況が最適かどうかを考えなくてはいけません。収入を増やすことで生じる影響は、以下の「扶養内で働く時の年収の壁」で詳しくご紹介します。

扶養内で働く時の年収の壁

年収の壁とは、税金や社会保険料の扶養が認められる年収のラインを指します。扶養内で働きたい場合は、下記の収入以内に収まる働き方をする必要があります。
 

年収 扶養する人の税金への影響 扶養される人の税金への影響 社会保険の影響
98万円 住民税がかかりはじめる。
103万円 配偶者控除から配偶者特別控除に切り替わる。 所得税がかかりはじめる。
106万円 勤務先の企業規模や働き方によっては、社会保険の加入義務が発生する。
130万円 社会保険の扶養から確実に外れるため、新たに国保や勤務先の社会保険に加入する必要がある。
150万円 配偶者特別控除が満額受けられなくなり、配偶者の収入が増えるにしたがって段階的に控除額が減っていく。
201万円 配偶者の年収が201.6万円を超えると、配偶者特別控除がゼロになる。
 

98万円の壁

給料が年収98万円以上になると、住民税が発生する可能性があります。なお、税金のルールでは、勤め先から支給される非課税の交通費手当は年収にカウントしませんが、社会保険のルールではカウントする点に注意してください。

住民税には43万円の基礎控除があり、年間の合計所得金額2,400万円以下であれば誰でも使えます。これに加え、給与収入の場合は給与所得控除が最低55万円となっています。つまり、これらを合計した98万円までの年収に収まれば、住民税は一切かかりません。

なお、住民税には控除の計算とは別に非課税限度額というルールがあり、給与収入が100万円以下で他に所得がない場合は、所得金額に応じて計算される「所得割」がかかりません。ただし、税額が一律の「均等割」はかかる可能性があります。住民税の計算は地方自治体によって異なる場合があるため、お住まいの市区町村の窓口にお尋ねください。

103万円の壁

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年収103万円を超えると、扶養する人と、扶養される人のそれぞれの税金に影響が出てきます。

まずは扶養する人への影響から説明します。たとえば夫が会社員、妻が年収103万円以内で働いていた場合、夫は配偶者控除を使えます。ところが、妻の年収が103万円を超えると配偶者控除を使えなくなります。

ただし、配偶者控除を使えなくなっても、代わりに配偶者特別控除を使うことができ、すぐに税負担が増えるわけではありません。扶養する人の税負担が増え始めるのは、後述する「年収150万円」がボーダーラインとなります。

次に、扶養される人への影響も考えておく必要があります。所得税のルールでは、年間の合計所得金額が2,400万円以下であれば48万円の基礎控除を使えます。先ほど説明した住民税の基礎控除よりも5万円多くなっています。そして、給与所得控除の最低額は住民税と同じく55万円です。

したがって、基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円を合計した103万円までは、所得税は一切かかりません。103万円を超えると、超えた部分に対し5~45%の所得税と、所得税額の2.1%に相当する復興所得税がかかります。たとえば年収105万円であれば、給与所得控除55万円と、所得税の基礎控除額48万円を差し引いた2万円に対して、所得税の税率(5%)を掛けた1,000円の所得税と、所得税の2.1%の復興特別所得税として21円を支払うことになります。

106万円の壁

年収が106万円を超えると、社会保険の扶養から外れる可能性が出てきます。2020年に公布された年金制度改正法により、2022年10月に社会保険のルールが変わりました。以下の全てを満たすと、パートであっても勤務先で社会保険に加入しなくてはいけません。この場合、それまで使っていた保険証は使えなくなるので、返却などの手続きが必要です。

① 勤め先の事業所の従業員数が100人を超える
② 勤務期間が2ヶ月以上
③ 月の賃金が8万8000円以上
④ 週の労働時間が20時間以上
⑤ 学生ではない

これらの条件を満たして社会保険に加入すると、新たに健康保険や厚生年金の保険料を支払うことになるので、手取り収入が減るおそれがあります。そのいっぽうで、病気やケガで働くことができなくなった場合に傷病手当金をもらえたり、年金の支給額が上がったりと、社会保険に加入するメリットもあります。

(参考)令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html

130万円の壁

106万円の壁は、勤務先や働き方によっては適用されません。たとえば勤務先の従業員数が100人以下だったり、週の労働時間が20時間未満だったりすると、年収106万円を超えても社会保険の扶養に入ることができます。

しかし、年収130万円を超えると、勤務先や働き方によらず確実に社会保険の扶養から外れます。この場合、勤務先の社会保険に加入するか、自身で国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。国民健康保険料は収入に応じて変動し、お住まいの地方自治体によって計算方法が変わります。国民年金保険料は一律で月々16,590円(令和4年度)です。さらに、40歳以降は健康保険料に介護保険料が加算されます。

150万円の壁

扶養されている人の年収103万円を超えると、扶養している人が使っていた配偶者控除が配偶者特別控除に変わります。この2種類の控除の額は、扶養する人と、扶養される人の所得金額の組み合わせで決まります。

たとえば合計所得900万円以下の夫が70歳未満の妻を扶養している場合、配偶者控除は一律38万円です。しかし配偶者特別控除は38万円からスタートし、妻の所得が増えるにつれて段階的に減っていきます。

とはいえ、年収103万円を超えた途端に夫の税負担が増えるわけではありません。配偶者控除と、配偶者特別控除の最高額は同じ38万円です。控除額が減り始めるのは、配偶者の給与年収が150万円を超えてからです。

たとえば配偶者の給与年収が155万円の場合、配偶者特別控除は最高36万円ですから、配偶者控除の最高38万円にはおよびません。このように控除額が減ることで、扶養していた人の税金が増えていきます。

出典:国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_2.htm

201万円の壁

配偶者特別控除がゼロになるボーダーラインが、年収201.6万円です。この年収を超えると、社会保険に加えて、税金上の扶養関係もなくなります。

まとめ

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扶養内勤務で税金や社会保険料を抑えるか、扶養から外れて年収や将来の年金などを増やすか、選択肢は大きく2つに分かれます。どちらを選ぶかは個人の考え方次第ですが、2022年10月の法改正で年収の壁の仕組みが変わったため、あらためて働き方を考えて最適な選択を行うようにしましょう。

ライター:小林義崇(ライター/元国税専門官)
2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、相続税調査や確定申告対応等に従事。2017年にフリーライターに転身。著書に「すみません、金利ってなんですか?」(サンマーク出版)、「あんな経費まで! 領収書のズルい落とし方がわかる本」(宝島社)などがある。

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