
派遣スタッフが社会保険に加入できる条件とは?

医療費を抑えてくれる健康保険や、失業時の備えになる雇用保険など、社会保険は「万が一のとき」を支える大切な制度です。社会保険には種類があり、雇用期間などの働き方によって加入する社会保険が決まります。今回は、派遣スタッフとして働く場合に知っておきたい「社会保険についての基礎知識」として、加入条件や加入できる雇用期間を紹介します。
目次
「社会保険完備」とは何を意味するの?

求人情報の福利厚生欄で、「各種社会保険完備」という言葉を見たことはありませんか? そのような会社や事業所から「給料・給与」をもらって一定の条件のもとで働く場合、派遣スタッフも会社の「社会保険」に加入することになります。
派遣で働く場合、派遣会社に雇用され、各派遣先で働くことになりますので、勤務先ではなく派遣会社で社会保険が完備されているかを確認する必要があります。
この「社会保険」には、「①労働者災害補償保険」「②雇用保険」「③年金保険」「④健康保険」「⑤介護保険」の5種類がありますので、それぞれのルールを見ていきましょう。
①労働者災害補償保険
お仕事中の事故や、業務が原因で発症した病気やケガ、通勤時の交通事故などが原因の病気やケガ、後遺障害、死亡などに対する保障となる社会保険です。
<労働者災害補償保険の保険料>
・労働者は負担する金額…なし
・事業者が負担する金額…事業の種類によって算定。
②雇用保険
会社の倒産や解雇で失業したときや、退職後、次のお仕事が決まるまでの一時的な期間の生活を支える給付や手当のための社会保険です。
<雇用保険の保険料(一般の事業の場合)>
・労働者が負担する金額…賃金の3/1,000
・事業主が負担…賃金の6/1,000
③年金保険
原則として65歳から支給される老齢年金のほか、病気やケガなどで障害を抱えてしまったときの生活を支える障害年金、本人が死亡した際に扶養されていた遺族を支える遺族年金など、老後の生活や「もしも」を支えるのが年金保険です。
日本国内に住所がある20歳から60歳までのすべての人は「国民年金」に加入しますが、社会保険の適用事業所から「給与・給料」をもらって働く場合は「厚生年金」に加入することになります。
国民年金の場合、支払う保険料は16,610円(令和3年度)で、収入がいくらであろうと保険料は変わりません。一方、厚生年金の加入者の場合、国民年金に相当する保険料に、報酬に比例した保険料が加算され、事業主と折半して支払います。
このように厚生年金の方が保険料(事業主負担分も含む)は高くなりますが、その分、将来受け取る年金については、国民年金だけを支払った人よりも、厚生年金に加入していた人の方が多くなります。
<年金保険の保険料>
標準報酬月額を8万8,000円~65万円以上の32段階に分けて設定した「報酬月額」と「標準賞与額」の18.3%(保険料率)を、労働者と事業主で折半した金額。
④健康保険
病気やケガで病院にかかる際に保険証を提示することで医療費を3割負担に抑えたり、高額な医療を一定の上限額の負担で受けられたりするなど、日常生活に密着した社会保険です。
お勤め先(派遣で働く場合は派遣会社)の健康保険に加入する場合、健康保険の保険料は事業主と折半して支払います。そして、収入額などの条件を満たす扶養家族がいる場合、その扶養家族は追加の保険料を負担することなく同じ保険に加入できます。
これらのケースに該当しない、自営業の方や会社を退職された方などは、「国民健康保険」に加入することになり、保険料は全額自己負担となります。
<健康保険の保険料(全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合)>
標準報酬月額を5万8,000円~139万円以上の50段階に分けて設定した「報酬月額」の約10%(保険料率)を、労働者と事業主で折半した金額。
⑤介護保険
要介護認定を受けると、介護サービスを1割負担で受けることができる、介護を必要とする方を支える社会保険です。40歳から64歳までの方は、介護保険料が健康保険料と一体で徴収されます。
・介護保険の保険料(全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合)
標準報酬月額を5万8,000円~139万円以上の50段階に分けて設定した「報酬月額」の約2%(介護保険料率)を、労働者と事業主で折半した金額。
社会保険に加入できる条件

社会保険に加入できるかどうかは、「正社員・派遣スタッフ・契約社員・アルバイト」といった雇用形態が基準ではありません。今回紹介した5つの保険の種類によって、加入できる基準が異なります。
加入できる戸口が広いものから順番にチェックしていきましょう。
■労災保険…すべての労働者
■雇用保険…31日以上継続して働く&1週間の所定労働時間が20時間以上
■健康保険&年金保険&介護保険…下記2種類の条件があります
【常用雇用者の加入条件】
1週間の所定労働時間:30時間以上
契約期間2ヶ月以上
【短時間雇用者の加入条件】
1週間の所定労働時間:20時間以上
契約期間1年以上を見込んでいる
月額賃金8万8,000円以上
従業員数501人以上(500人以下の場合も、労使で合意があればOK)
[例]
スタッフサービスからの派遣スタッフで「社保完備」になる働き方のケース
└フルタイムの派遣スタッフで2ヶ月を超える見込み
・1日8時間、週4日勤務で2月1日から4月1日まで契約
・1日5時間、週4日勤務で1年契約、時給1200円
・1日8時間、週3日勤務で1年契約、時給1200円
短期派遣の社会保険への加入は?
派遣期間が短期となる場合の社会保険の加入について紹介します。
以下に該当する短時間労働者については、社会保険への加入義務から除外されます。
・前項の「短時間雇用者の雇用条件」に当てはまらない者
・2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(※)
※2ヶ月を超えて、引き続き派遣されることになった場合、2ヶ月を超えた日から社会保険に加入。
扶養内でおさめる働き方も

「社会復帰も久しぶりだし、まずは扶養内の範囲で働きたい……」という場合、「アルバイト・パートしか選べない」と誤解されていませんか? 派遣という働き方でも、扶養内で働くことはもちろん可能です。
社会保険の扶養内で働くには、自らが社会保険の加入義務から除外されていることが第一条件となります。たとえばこのような働き方です。
・月額賃金88,000円未満の範囲で働く。
・1日5時間、週3勤務で1年以上の長期契約。
「フルタイムで働きたいけれど、保険には入りたくない……」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、フルタイムで働くのであれば、社会保険の加入は必須です。ご自身が社会保険に加入する場合、扶養に入ることはできません。
さらに、扶養内で働きたい方は、収入のボーダーラインについても注意しましょう。扶養には、「税金に関する扶養」と「社会保険に関する扶養」があり、さらに社会保険に関する扶養は、「年収106万円」と「年収130万円」という2つのボーダーラインがあります。扶養内のボーダーラインについて、下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
また、扶養内で働きたいという希望を派遣会社に伝えるのもありです。希望に沿った働き方、就業先を紹介してもらえる可能性があります。
スタッフサービスでお仕事をしていただく際に加入する保険組合

最後に、スタッフサービスが加入する健康保険組合を紹介します。
今回紹介した保険のなかで、健康保険だけは、保険組合や事業所登録をした都道府県ごとに保険料率や保険サービスが異なります。
スタッフサービスでは、どの会社に派遣される場合でも、最大の保険者である「全国健康保険協会(愛称:協会けんぽ)」の健康保険に加入していただきます。(※2019年4月~)
保険組合への加入に当たっては以下の用意が必要になります。
・加入申込書
・マイナンバー
・本人確認書類(免許証、パスポートなど)
・印かん
・住民票(世帯全員が記載されているもの)
・保険証のコピーまたは資格喪失証明書
・仕事の業種と在籍状況が確認できる書類(1年以内に発行された雇用証明書など)
・世帯に属する者の職業および使用される事業所名
まとめ
社会保険とは、病気やケガ、老後の生活など、さまざまなリスクに備えて、私たち一人ひとりがお金を出し合って保険による補償を受ける仕組みです。
民間の医療保険などでもリスクに備えることはできますが、勤務先や派遣会社を通じて加入する社会保険の場合、事業主も保険料を負担するため、本人の負担が少なくなるというメリットがあります。
ただし、社会保険に加入する、しないは、個人で選択するものではなく、働き方によって決まります。仕事を始めるときは、扶養内で働くことなども考慮しつつ、社会保険への影響を踏まえて、自分に合った働き方を選択するようにしましょう。
※当コラムに掲載されている情報は2021年8月時点のものです。
- ライター:小林義崇(マネーライター/元国税専門官)
- 2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、相続税調査や確定申告対応などに従事。2017年にフリーライターに転身。著書に「すみません、金利ってなんですか?」、「すみません、2DKってなんですか?」(サンマーク出版)などがある。