ジョブ型雇用とは欧米諸国で主流になっている雇用形態で、職務(ジョブ)を明確に定義して報酬を定める働き方です。日本で広く定着してきた、学歴や年齢、勤続年数を重視するメンバーシップ型雇用とは、採用方法も評価基準も大きく異なっています。
本記事では、ジョブ型雇用の基礎知識と注目されている背景について紹介するとともに、メンバーシップ型雇用との比較、それぞれのメリット・デメリット、派遣スタッフとの関係について解説します。
自社にとって、また従業員にとって、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用のどちらが向いているのか、参考にしてみてください。
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、仕事内容をあらかじめ明確に定義して採用する雇用形態です。大きな特徴は、年齢や勤続年数ではなく、「職務」によって報酬を決めること。AIエンジニアは年収1000万、データアナリストは年収800万円など、仕事や役割に値段をつけ、その業務に最適な人材を配置します。
求人募集においても、具体的な職務や目的、必要なスキルや能力、責任や権限の範囲、勤務地やポスト、報酬などを明確に規定したうえで、企業と労働者が合意して雇用契約を締結します。特定の仕事を遂行できるスキルが重視されるため、職務に人を合わせる「仕事主体の雇用形態」ともいわれています。
メンバーシップ型雇用とは?
メンバーシップ型雇用とは、職務を限定せず幅広い人材を採用し、能力や意欲に応じて仕事を分担する雇用制度です。新卒一括採用、年功序列、終身雇用などに代表される日本型の雇用形態を指します。
メンバーシップ型雇用では、年齢・学歴・人柄・意欲などを重視して人材を採用、その多くが総合職として雇用されます。企業側は、辞令によって従業員を配置転換させることが可能で、従業員は部署異動や転勤などを繰り返しながら、キャリアアップしていきます。
また、人材確保のために、「年齢を重ねるごとに昇給していく」「長く勤めるほど退職金が多くもらえる」といった制度を多くの企業が採用しています。
メンバーシップ型雇用は、若年層が多く、経済が右肩上がりに成長していた高度成長期には有効に機能していました。しかし、高度成長の終焉(しゅうえん)やバブルの崩壊によって日本経済の成長が止まり、少子高齢化、人口減少時代が到来したことで、雇用のあり方に変化が求められています。
ジョブ型雇用が注目されている背景
日本でジョブ型雇用が注目されるようになった背景には、次の3つの理由が考えられます。
①働き方改革に対応し、企業の生産性を上げるため
日本は労働生産性が低下している傾向にあります。日本生産性本部によると、2020年においても日本の労働生産性は、主要先進国(G7)の最下位。統計をさかのぼることができる1970年以降、50年以上G7最下位が続いており、OECDに加盟する38カ国中でも23位。2019年(同37カ国中21位)からさらに順位を下げています。
労働生産性の低下、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少、働く人のニーズの多様化など、日本が直面している多くの課題に対応するためには、働き方改革による生産性向上や、就業機会の拡大、意欲・能力を存分に発揮できる環境をつくることが不可欠となっています。
経団連(日本経済団体連合会)第5代会長・中西宏明氏が、2018年に従来型のメンバーシップ型雇用の手法に限界を唱えたことをきっかけとして、日本でもジョブ型雇用を推進する流れが生まれました。
②専門職の技術レベルを向上させて国際競争力を強化するため
日本は国際競争力も低下しています。国際経営開発研究所 (IMD)が発表した「世界競争力年鑑 2021」によると、日本は64カ国中31位。1989年からバブル崩壊前後の1992年までは1位を維持していましたが、1997年に17位に急落。2019年以降は3年連続で30位台が続き、中期的に低迷しています。
メンバーシップ型雇用の特徴である新卒一括採用は、スキルのない学生を総合職として採用するのが一般的です。その後、ジョブローテーションによって、さまざまな職種を経験させることで万能型の人材として育成していきますが、この方法では専門性が高まりにくく、専門職の技術向上も難しくなります。
DXやIOT、ICTなど今後あらゆる業種で取り組むべき新しい事業には、高い専門性を有する人材の獲得・育成が欠かせません。「専門分野に関わる人材を募るには、スキルや業務内容に特化したジョブ型雇用の手法がマッチする」という考え方が浸透しつつあることもジョブ型雇用導入拡大の一因と考えられます。
③テレワークの普及に対応するため
2020年以降、新型コロナウイルス対策として多くの企業でテレワークが導入されるようになりました。スタッフサービスの調査によると、約8割の人が「実際にテレワークをしてみて良かった」と回答しており、「通勤時間の有効活用」「ストレス軽減」「無駄な会議が減った」などのメリットを挙げています。
一方で、「チームや同僚、部下の仕事の進捗が把握できない」「自己管理できないと生産性が下がる」といったマネジメントや人材管理の難しさ、生産性の低下をデメリットとして挙げる声も少なくありません。
メンバーシップ型雇用は、成果を出さずとも、雇用が維持され、年齢や社歴によって昇給していくため、労働意欲や生産性の低下が起こりやすく、テレワークによってその傾向が顕著になっているようです。
ジョブ型雇用は、「社員一人ひとりの自律的な働き方を促す、具体的な成果を客観的に評価しやすい雇用形態」といわれています。テレワークにおける、社員の働く姿が見えない、部下の管理が難しい、生産性が低下するといった問題の解決策として、ジョブ型雇用が一気に注目されるようになりました。
メンバーシップ型雇用との違い
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は、正反対の雇用形態ともいわれ、さまざまな点が大きく異なっています。採用基準、人材育成、評価基準という3つの観点から比較してみましょう。
採用基準の違い
メンバーシップ型雇用は「人」を優先的に考える雇用形態です。主に年齢・学歴・人柄・意欲などを重視して採用をおこないます。新卒一括採用をして、同じ研修をおこない、ジョブローテーションによって複数の職場を経験させ、将来の幹部候補として育てていくのが一般的です。
ジョブ型雇用は「仕事」を優先的に考える雇用形態です。「エンジニア」や「データサイエンス」といった職務への適性を重視して採用をおこないます。年齢や学歴ではなく、その職務を遂行できるスキルや経験があるかどうかが採用基準となるため、経験者の採用が中心になります。
人材育成の違い
メンバーシップ型雇用は、新卒社員に対する新人研修やOJT、昇格者研修など、会社が用意した各種研修で一括して教育をおこないます。複数の部署を経験させるジョブローテーションを実施し、社内の仕事をオールラウンドにこなせるゼネラリストを目指した人材育成をしていくのが一般的です。
ジョブ型雇用は、専門分野のスキルを持ったスペシャリストを採用することが多いため、会社側が一律的な教育の機会を用意することはありません。専門的な職務に注力しながら、自己研鑽(じこけんさん)によってスキルを向上させ、評価や報酬、キャリアアップにつなげていくことが基本になります。
評価基準の違い
メンバーシップ型雇用は、長期的な雇用関係の継続を目的としているため、年功で評価するのが一般的です。業績評価や情意評価をおこない、成果や意欲が人事評価に反映される場合もありますが、終身雇用や年功序列が基本となっているため、勤続年数が長くなればなるほど、給与が高くなります。
ジョブ型雇用は、職務によって報酬が決まります。営業部長なら年収1000万、経理部長なら年収900万など、仕事やポストに値段がついており、目標の達成度や成果で評価されるのが一般的です。勤続年数の長さや年齢は関係なく、職責の重さや仕事内容、スキルによって報酬が決定します。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
大企業を中心として導入する企業が増えているジョブ型雇用ですが、「メンバーシップ型雇用を基本としてきた日本企業には馴染まない」「欧米諸国と同様に運用するのは難しい」といった声も少なくありません。ジョブ型雇用のメリット・デメリットについて、それぞれ見てみましょう
ジョブ型雇用のメリット
・専門性の高い人材を確保できる
ジョブ型雇用は、職務や仕事内容の範囲を限定することによって、より専門性の高い人材を採用することが可能になります。生産性向上やグローバル競争力の強化が期待できます。
・採用のミスマッチを防げる
ジョブ型雇用は、職務を明確にして最適な人材を採用する雇用形態です。求職者は事前に仕事内容や報酬、必要なスキルを理解したうえで応募してくるため、採用のミスマッチが起こりにくくなります。
・適材適所の採用ができる
ジョブ型雇用を導入することによって、適切なタイミングで最適な人材を採用しやすくなります。新規事業や事業拡大の際も、求める人材を採用しやすく、適材適所の配置が可能になります。
・マネジメントしやすい
ジョブ型雇用を志向するのは、専門的なスキルを持った自律型人材が多い傾向があります。指示を待つのではなく、自らの意思で考え、能動的に業務を遂行するため、上司は人材管理がしやすくなります。
・コスト削減効果がある
ジョブ型雇用は、職務に見合った報酬を設定します。年功序列の給与制度は、スキルや成果に見合わない高額な年収になることが少なくないため、人件費削減の効果が期待できます。
ジョブ型雇用のデメリット
・異動や転勤、仕事内容の変更がしにくい
ジョブ型雇用は、勤務地や仕事内容を明確に規定するため、企業の都合で転勤や異動を命じることはできません、任せる仕事内容を変える場合は、その都度、契約をし直す必要があります。
・新卒社員の活躍が難しい
ジョブ型雇用に適しているのは、専門的スキルを持った経験者になるため、新卒社員の活躍が難しくなります。社会経験の浅い若手を採用しづらく、組織の新陳代謝が起きにくくなります。
・自主的な成長を求める
ジョブ型雇用は、専門性の高いスキルが求められるので、一律的な教育が難しくなります。自主的なスキルアップが基本になるため、自社による人材育成が難しくなる場合があります。
・組織の一体感が生まれにくい
ジョブ型雇用は、業務の範囲を明確に規定するので、他者の仕事をフォローしにくくなります。そのため、部署間・部署内の一体感の工夫が必要になるケースがあります。
メンバーシップ型雇用のメリット・デメリット
一方、日本型のメンバーシップ型雇用には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。こちらについても、それぞれ見てみましょう。
メンバーシップ型雇用のメリット
・異動や転勤、仕事内容の変更ができる
メンバーシップ型雇用は、異動や転勤、仕事内容の変更を命じることができるため、臨機応変な対応が可能となります。頻繁に組織再編を繰り返す企業は、メンバーシップ型が馴染みやすいといわれています。
・新卒採用がしやすい
メンバーシップ型雇用は、職務や仕事内容を限定しないので、新卒社員の採用がしやすくなります。自社の社風に合った若手を育成しやすく、組織の新陳代謝も期待できます。
・一律の研修・教育ができる
メンバーシップ型雇用は、一律の研修や教育ができます。新卒社員を対象とした合同研修やOJT、階層ごとの昇格者研修、管理職を対象としたリーダー研修など、効率的に人を育てることができます。
・ゼネラリストや幹部候補を育てやすい
メンバーシップ型雇用は、長期雇用が前提となっています。ジョブローテーションによって自社にとって必要なスキルや経験を網羅したゼネラリストを、時間をかけてじっくり育てることができます。
メンバーシップ型雇用のデメリット
・専門知識や技術を持った人材を育てにくい
メンバーシップ型雇用は、ゼネラリストの育成を前提としているため、特定分野における専門的な知識や技術を持ったスペシャリストを育てにくくなります。そのため競争力が低くなる傾向があります。
・採用のミスマッチが起きやすい
新卒一括採用は、社員が戦力になるまで時間とコストがかかります。人間関係や社風、仕事内容が合わないといった理由で早期に離職する若年層も多く、採用のミスマッチが起きやすくなります。
・労働生産性が下がりやすい
メンバーシップ型雇用は、1人の従業員がさまざまなタスクに対応します。そのため業務効率が低下する、専門性の低さを残業でカバーするなど、労働生産性が低くなる傾向があります。
・テレワークに対応しにくい
メンバーシップ型雇用は、評価基準が不明確なケースが多く、上司の主観によって部下が評価されます。テレワークは部下の働く姿が見えにくいため、人事評価や人材管理に混乱が起きやすくなります。
・中高年の人件費が重荷になりやすい
メンバーシップ型雇用は、年齢を経るごとに給与が高くなります。現在の日本の平均年齢は、ほぼ50歳。40~50代が人口のボリュームゾーンになっており、中高年の人件費高騰が深刻な問題になっています。
派遣スタッフやアルバイトはどちらになる?
ここまで解説をしてきたジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用ですが、派遣スタッフやアルバイトはどちらに該当するのでしょうか。この点について考えると、ジョブ型雇用を理解しやすくなります。
ジョブ型雇用は新しい雇用形態のように感じますが、実はそうではありません。経団連では、ジョブ型雇用について次のように定義しています。
特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと。
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引用元:
一般社団法人 日本経済団体連合会(2020)|採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書「Society 5.0 に向けた大学教育と 採用に関する考え方」
派遣スタッフやアルバイトは、特定のポストに空きが生じた際に募集され、その役割を遂行できる能力や資格のある人材が採用されます。これは、いわゆるジョブ型雇用と同じです。中途採用も求人票に職務や報酬を示して募集するケースが多く、業務委託やアウトソーシングもジョブ型雇用といえます。
現在のジョブ型雇用への注目の高まりは、多様な働き方をより大きく広げる動きと考えると理解しやすくなるのではないでしょうか。
まとめ
ジョブ型とメンバーシップ型、自社に最適な雇用形態を選択するのは難しい問題です。グローバル企業では、海外支社と人事制度を統一するためにジョブ型雇用を一気に導入するケースもありますが、従来とは異なる雇用形態に移行することで混乱を生むこともあります。
一方で、労働生産性の向上、国際競争力の強化、年功序列による人件費の高騰など、早急に解決しなければいけない課題もあります。新卒一括採用を続けながら、成果と報酬を比例させる、業務によっては専門性の高い派遣スタッフを活用するなど、双方のメリットを柔軟に組み合わせるのもひとつの方法です。
ジョブ型・メンバーシップ型、それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、自社に合った雇用形態を慎重に検討するようにしましょう。
《ライタープロフィール》
ライター:鈴木にこ
求人メディアの編集者を経て、フリーランスとして活動中。派遣・新卒・転職メディアの編集協力、ビジネス・ライフスタイル関連の書籍や記事のライティングをおこなう。