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深刻化する「人材不足」!企業が取るべき対策とは?

深刻化する「人材不足」!企業が取るべき対策とは?

帝国データバンクが2018年10月に出した景気・経済動向記事「『人手不足倒産』の動向調査(2018年度上半期)」によると、2018年上半期に、従業員の離職や採用難で収益が悪化したことによる倒産、いわゆる「人手不足倒産」が前年同期比40.7%増となりました。さらに、2018年12月の「2019年の景気見通しに対する意識調査」によると、企業が景気回復のために必要な施策のトップは「人手不足の解消」。いよいよ日本の人材不足が深刻化してきたようです。ここでは、どの業界で人材不足が起きているのか、そして人材不足が企業に与える影響についてみていきます。

なぜ、人材不足になるのか?

人材不足の原因は、日本の少子高齢化が進行しているからです。内閣府が公開している「平成30年版高齢社会白書」によると、日本の高齢化率は、1950年には5%未満でしたが、1994年には14%を超え、2017年には27.7%になりました。高齢化率とは、総人口に対して65歳以上の人口が占める割合のことです。
一方、生産年齢人口といわれる15~64歳人口は、1995年にピークを迎えたあとは減少し続けています。総人口に占める割合も、2017年は60.0%。統計では生産年齢は15歳以上ですが、高度成長期と違い、今の日本は高校進学率が8割以上、大学進学率も5割を超えていますから、実際に仕事をしている年齢層はほぼ18歳以上と考えられます。加えて、介護や育児など何らかの理由で、フルタイムで仕事をしている人はさらに少なくなります。
このように、働き手の人数そのものが減少していることから、さまざまな業界で人材不足を起こしているのです。

どの業界が特に人材不足なのか

中小企業庁がとりまとめた「中小企業・小規模事業者の人手不足対応研究会とりまとめの概要」(2017年3月)では、人材不足は全業種にわたり深刻化しており、恒常化しうる問題だと指摘されています。人材不足の状況は、産業によっても、年齢によっても、企業規模によっても異なっており一概にいえませんが、建設業、サービス(宿泊・飲食)業、介護・看護業、運輸業は特に人材不足感が強まっているようです。
これら産業の現状について、厚生労働省は「人手不足の現状把握について」(2018年6月1日)で次のように報告しています。なお、「人手不足の現状把握について」は、2018年6月1日に開催された第2回雇用政策研究会で配布された資料で、新規求人数等の推移や入職・離職等の状況から年齢別・産業別・企業規模別の人手不足の現状についてまとめたものです。

建設分野

30歳未満が占める割合が11.0%なのに対して55歳以上は34.1%と、高齢化が進行しています。
東京オリンピック開催による建設ラッシュが起こっていることに加えて、高速道路や道路橋、下水道管など、高度成長期以降に整備した社会インフラの老朽化によって、人材不足はますます加速しています。厚生労働省では、2025年における技能労働者の需給ギャップは47~93万人と見積もっています。

宿泊業、飲食サービス分野

離職率が29.8%と、産業全体平均の14.9%を大きく上回っています。これは、アルバイトやパートなどの非正規雇用者の割合が7割以上を占めていることも一因ですが、新規学卒で就職した若年層の離職率の高さも大きく影響しているようです。
厚生労働省によると、大卒の就職後3年以内の離職率は、全産業平均が31.8%なのに対して宿泊業・飲食サービス業は49.7%(「新規学卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者の状況)を公表します」)と、全産業中1位でした。主な原因には、「休暇が取得しづらい」「賃金が低い」ことなどがあります。

介護分野

公益財団法人介護労働安定センターの調べによると、介護分野での人材不足感は、2010年が50.3%だったのに対し、2017年には66.6%と年々高まっています。特に訪問介護員の不足感は82.4%と、慢性的な人材不足にあることが伺えます。
慢性的な人材不足は、高齢化の進行で、職員数よりもサービスを受ける高齢者数が増えていることが大きく影響しています。厚生労働省によると、団塊の世代が75歳以上に達する2025年には在宅介護で24%増、居宅系サービスで34%増、介護施設で22%増となることが見込まれおり、今後も人材不足は加速するものと思われます。

運輸分野

月当たりの総労働時間が、産業全体が178時間であるのに対して209時間と群を抜く超過労働となっています。長時間労働になっている一因には、運送先での長時間の荷待ち時間や積み下ろしの時間があります。
「労働時間(特に超過労働時間)が長く、給与水準が低い」「トラックドライバーはきつい仕事というイメージ」などから、若年層の参入が少なく、現役ドライバーが高齢化していく傾向がみられます。その一方で、ネット通販の増加により宅配便取扱個数が急増しており、厚生労働省では、2030年におけるトラックドライバーの需給ギャップは8.6万人になると見積もっています。

人材不足が企業に与える影響

人材不足によって企業はどのような影響を受けるのでしょうか。人材不足の状態が慢性化すると、一人ひとりの負担が大きくなるだけではなく事業が立ち行かなくなり、最悪の場合、倒産や廃業、縮小せざる得ない状況になる可能性もあります。
こうした背景から、一部の企業ではRPAやAIなどを導入して業務を自動化したり、ノウハウをデータベースにまとめて標準化したり、アウトソーシングを活用するなどして、生産性を向上させようという動きがみられます。業務改革によって、人材不足を補おうというのです。こうした動きは製造業やエネルギー産業で顕著で、工場のIoT化(スマートファクトリー)を推進する企業も増えてきています。

人材不足を解消するために、働きやすい環境づくりを実現する

「中小企業・小規模事業者の人手不足対応研究会とりまとめの概要」では、人材不足解消の重要な視点として、次の3つのステップを挙げています。

1.経営課題や業務を見つめ直す
2.業務に対する生産性や求人像を見つめ直す
3.働き手の目線に立って、人材募集や職場環境を見つめ直す

自社の方向性に合わせて業務内容を棚卸し、その業務にはどのような人材が必要かを見直し、求める人材が働きやすい職場環境を実現するということです。特に業務の見直しでは、固定概念にとらわれないことが重要です。具体的には、業務を細分化し、未経験でも従事できる作業工程を構築する、主婦やシニアが働きやすいように時短勤務や在宅勤務を導入する、同一労働同一賃金を徹底する、海外からの人材を受け入れたりするなどです。