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人材ポートフォリオの効果とは?基礎知識と作り方のポイントを解説!

人材ポートフォリオの効果とは?基礎知識と作り方のポイントを解説!
人材を適正に配置して成果を上げるために用いられる「人材ポートフォリオ」。多様な働き方が広がる昨今、より効果的に業績や成長へつなげるための手法として注目を集めています。「優秀な人材を採用したが、期待していたほどの成果が上げられない」といった悩みを抱えている企業は、人材マネジメントの見直しのためにもぜひ導入を検討したい手法のひとつです。

本記事では、人材ポートフォリオの概要と、その必要性やメリットを解説。加えて、人材ポートフォリオの実際の作成方法と導入事例など、企業人事における“適材適所”を実現するための情報を紹介します。

人材ポートフォリオとは?

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人材ポートフォリオとは、企業内の人的資源の構成内容のことをあらわします。さまざまな経験やスキルをもった社員を適切に配置し、効率的かつ最大限に業績向上を図ることを目指す人材マネジメント手法のひとつです。人的な資源を可視化することができ、人材配置をはじめ、採用計画や人材育成、評価など、人事の要を担います。

具体的には、企業が事業で成果を上げるためには、「社内のどこに」「どんな人材を」「どのくらいの人数」を配置すればよいかを分析・設計したデータが「人材ポートフォリオ」です。

「ポートフォリオ」とは元々、「書類入れ」「紙ばさみ」という意味です。「目的のある書類の束」といったニュアンスがあり、クリエイターが自身の作品をまとめて整理したもの(作品集)を指すこともあります。また、金融・経済分野では投資家や企業が保有している株式や債券の一覧や組み合わせの内容を示す言葉でもあります。

なぜ人材ポートフォリオが必要なのか

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人材ポートフォリオが注目されている背景には、働き方改革や女性の社会進出に伴い労働者の働き方が多様化していることがあります。企業は、幅広い人材を抱えながら人件費を効率化することを追求しなければなりません。また、成果を上げていくためには、自社に在籍する人材の調査や分析をおこなう必要があります。

そのうえで、一人ひとりに合った働き方や待遇を設計し、それらを組み合わせて、全体最適(※)を実現していく。そのためのツールとして人材ポートフォリオに、注目が集まっているのです。

(※)全体最適
企業や組織、またはシステム全体が最適化された状態を示す経営用語のひとつ。生産性向上やコスト削減などの問題解決や経営改革に導入されるケースが多い。

人材ポートフォリオをつくるメリット

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人材ポートフォリオを活用することで得られる具体的なメリットを挙げていきましょう。

最適な人材配置ができる

部署やプロジェクトの内容に合わせた、最適な人員配置が可能になります。人材ポートフォリオにより、それぞれの社員の強みや弱み、思い描くキャリアなどを可視化することにより、部署やプロジェクトの特性・目標に見合った人材を配置することができます。これにより、効率的に目標を達成できるだけでなく、中長期的な視点に立った人材育成にもつながります。

また、社員は自身の特性を活かした業務に携わることができるので、モチベーションアップにつながり、生産性向上も期待できます。

社員に合わせたキャリアパスを形成できる

一人ひとりの強み・弱み、志向キャリアを把握することは、社員のキャリアパス(※)の共有や実現にも役立ちます。多様な働き方が広がっている昨今、キャリアプランも多様化しています。人材ポートフォリオにより、各社員の適性とキャリアパスを把握しておくことで、将来的に個々に適した処遇を提案しやすくなります。

(※)キャリアパス
仕事における最終的な目標を定め、そこに向かって進んでいくための道筋。キャリアパスの「キャリア」は、単なる仕事の経歴ではなく、人材として高い価値をもつと判断されるような職歴を意味することもあります。

人材、人件費の余剰と不足を把握できる

3つ目に紹介する人材ポートフォリオのメリットは、人材の過不足を的確にマネジメントできる点です。

人材ポートフォリオの作成によって、自社に多くいる人材、逆に足りない人材などを把握できるようになります。これにより、過不足しているプロジェクトや部署に対して、採用や配置、教育などの面で適切な対応を取れるようになります。

また、原則無期雇用の社員と雇用期間が限られている派遣スタッフの役割を明確にすることで、人材を最大限に活用することができ、人件費削減にもつながります。

人材ポートフォリオの作り方<分析・設計>

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実際に人材ポートフォリオの分析・設計をする際は、専門コンサルタントに依頼する場合もありますが、ここでは、簡易的かつ一般的な人材ポートフォリオ作成の流れを紹介します。

①活用の目的を明確にする

人材ポートフォリオ作成の前提として、「人材ポートフォリオを活用して何をしたいのか」を明確にしておくことが大事です。そのためには、中長期的な経営計画や企業戦略を明らかにする必要が出てくるケースもあります。

②必要な人材のタイプを分析・定義する

自社の事業内容や経営計画に必要な人材はどのようなタイプなのかを決めます。横軸(X)と縦軸(Y)の2軸を設定するとわかりやすいでしょう。

一般的には、「スペシャリスト(専門職)⇆ゼネラリスト(総合職)」の軸に、「個人(個人でする仕事が得意)⇆組織(チームでする仕事が得意)」「創造(新しい企画や商品を生み出すことが得意)⇆運用(すでにある価値の販売や管理が得意)」など、企業の事業内容や企業目標に合わせた軸を組み合わせる方法が汎用性が高いとされています。

ここでポイントとなるのが、「今、企業で用意できる人材タイプ」だけではなく、「将来的に必要になる人材タイプ」も含めることです。こうして、X軸とY軸で分けられた4つの領域の人材が、ポートフォリオ設計の基準となります。

③社員をそれぞれのタイプにあてはめる

①で定めた4つの領域に、自社の人材をあてはめます。このときに大切なのは、客観的で信頼できるデータに基づいて分類すること。科学的な根拠がある適性検査の結果や、社員のスキルや知識・経験をデータ化したスキルシートなど、従業員の納得感が得やすいデータを用意しておくとよいでしょう。

④社員のタイプに偏りがないかチェックする

どの領域にどれだけの人材が属するかを数値化・可視化することができたら、多すぎる・少なすぎる人材タイプを見極めます。たとえば、オペレーションを担う人材に対してマネジメント人材が多すぎる、総合職に対して専門職が少なすぎるなどが確認できるでしょう。これを適切な人材配置や人材の過不足把握につなげます。

現在抱えている課題だけでなく、将来的な課題や成長目標も視野に入れておくと、今後、人材確保すべき領域と適正な人数を見極めるためにも役立ちます。

⑤余剰または不足するタイプの解消手段を考える

人材が余剰している、または不足しているタイプが明らかになったら、「理想的な人材ポートフォリオ」に近づけるための手段を検討します。具体的には、必要に応じて、採用、育成、配置転換、退出・解雇などの施策をおこないます。

大切なのは、安易に人材削減に踏み込むのではなく、「“適材適所がなされていない人材”を減らす」ことを重視し、社員の適正やポテンシャルを活かせる方法を目指すことです。

人材ポートフォリオの事例紹介

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人材ポートフォリオを作成する際に鍵となるのは、2つの軸をどう定めるかということ。自社にとって重要となる要素を見極め、2軸を設定することが重要です。ここでは、2つの事例を紹介します。

日常業務⇆単発的な業務、専門性高⇆専門性低

業務内容を「日常業務」と「単発的な業務」に分類し、それぞれの専門性を2段階で分類。それにより、人材タイプを以下の4つにあてはめます。

・日常業務を継続的にこなす社員(日常業務-専門性低)
・専門性の高いコア業務を担当する社員(日常業務-専門性高)
・単発的な補助業務をおこなう社員(単発的な業務-専門性低)
・特定分野の専門性を有し働く社員(単発的な業務-専門性高)

汎用性が高く、分類の指標がわかりやすい事例のひとつです。どんな雇用形態の人材を採用するのかの判断材料になり、また、代わりの人材を用意する難易度も明確になります。

知識・技能レベル高⇆低、知識・技能の専門性高⇆低

事業に求められる知識と技能のレベルを高低で分類。さらにその専門性を高低で分類して、以下のような4つの人材タイプに分けています。

・パートタイマーやアルバイト:レベル低-専門性低
・派遣:レベル低-専門性高
・正社員:レベル高-専門性低
・専門職の正社員(レベル高-専門性高)

このような人材ポートフォリオの場合、業務に必要なスキルレベルで人材を分類できるため、各事業への割り振りはもちろん、どのような雇用形態を採用すればよいかの判断材料としても活用することができます。

人材ポートフォリオ作成・運用の注意点

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配置や採用などの人事計画において有効活用できる人材ポートフォリオですが、設計・運用するにあたっては注意するべき点もあります。

時間や予算など、負荷がかかることを認識する

人材ポートフォリオ作成には、人事担当者をはじめ企業全体に大きな負荷がかかります。また、ポートフォリオは設計することが目的ではなく、人事制度や教育制度に活かして初めて意味をもちます。さらに、適切な運用のためには、社員の理解を得たり、必要に応じて制度を見直したりする必要も生じます。こうした負荷を認識したうえで、ポートフォリオ作成に取り組むことをおすすめします。

ポートフォリオを、順位付けや優遇に利用しない

ポートフォリオ作成のためのタイプ別分類は、社員の優劣を量る材料ではありません。適材適所を目指すための過程であり、本来は、従業員のモチベーションを上げるために活かすべきものです。特定の社員の優遇につながらないよう配慮が必要です。

すべての雇用形態の社員を対象にする

目標達成に向けて、その企業内の全従業員を適正配置することがポートフォリオ作成の目的のひとつです。そのため、正社員だけを対象とすると、人的資源の現状分析が不十分となります。ポートフォリオ作成の際は、雇用形態にかかわらず、すべての従業員を対象とすることが理想です。このことが、企業に関わるすべての人材のモチベーションや一体感を高めることにもつながります。

従業員の意思や要望も反映する

従業員のキャリアパスを把握することも、人材ポートフォリオの作成においては不可欠です。企業側の都合だけで生産性や成長を追い求めるポートフォリオでは、社員の協力を得ることができず、実現することは難しくなります。それぞれの社員が思い描くキャリアパスを考慮して、サポートしていく姿勢を見せていくことも人材ポートフォリオには大切です。

まとめ

優れたスキルとキャリアをもった人材を採用することだけが成果に直結する、とはいえない昨今。各部署やプロジェクトに適切な人材を適切な人数だけ配置して、効果的に成果を上げることが現代の企業が抱えている課題です。

事業に必要な人材をタイプごとに分類して客観視することができる人材ポートフォリオは、自社の不足・余剰人材を洗い出すことを可能にします。自社の人材ポートフォリオを設計することは、より効果的な事業戦略や採用計画の組み立てに役立つでしょう。


《ライタープロフィール》
みやごかよ(コピーライター/ライター)
複数の広告制作会社にてコピーライター、プランナー、制作ディレクターを経験後に独立。現在はフリーランスとして活動中。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく~」という井上ひさしさんの言葉を大切に日々ライティング中。猫と植物とアートをこよなく愛する一女の母。