
外国人労働者を派遣スタッフとして受け入れるメリットと注意点を紹介

近年、日本で働く外国人労働者の人口が増加しており、企業の労働環境も大きく変わってきました。本記事では外国人の派遣スタッフを受け入れる企業が増加している背景と、企業が雇うメリットと注意点、外国人派遣スタッフに長く務めてもらうためのポイントを紹介します。
目次
今、外国人労働者を雇う企業が増えている

厚生労働省が公表した外国人労働者の数は1,724,328人(2020年10月末時点)。新型コロナウイルスの感染・拡大の影響で増加率は低下したものの、労働者数自体は年々増加傾向にあります。また、外国人雇用届出のあった企業のうち、労働者派遣・請負事業をおこなっている事業所数は19,005箇所。これら事業所に外国人労働者の19.8%が所属しています。
▼参考サイト:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000729116.pdf
外国人労働者が増加している背景
では、なぜ外国人労働者が増加しているのでしょうか。その背景について、3つのポイントで見ていきましょう。
<少子高齢化による労働者人口の減少>
日本では少子高齢化が進んでおり、生産年齢人口が減少の一途をたどっています。この生産年齢人口とは、働き手とされる15歳~64歳までの人口です。生産年齢人口は1995年の約8,716万人がピークで、2013年には8,000万人を下回り約7,901万人と減少し続けています。令和3年版高齢社会白書によると、2029年には約6,951万人と7,000万人を割り、2065年には約4,529万人にまで減少すると推測されています。また、65歳以上の人口と現役世代(15歳~64歳)の人口の比率をみると、2015年には65歳以上の者1人に対して現役世代は2.3人でしたが、2065年には1.3人の比率になると予想されています。こうした背景から、外国人労働者の需要が高まってきているといえそうです。
<特定の業種が人手不足になっている>
特定の業種が人手不足になってきていることも、外国人労働者の増加の背景といえます。たとえば、飲食業界や介護業界、小売業界など肉体的な負荷が高い業種においては、日本人労働者の働き手が少なく、外国人労働者への需要を高めているのです。介護業界でいえば、少子高齢化が進んでいくなか介護サービスの必要性は今後ますます高まっていくでしょう。
<外国人労働者に対する在留資格の拡大>
在留資格の拡大も、外国人労働者への需要を高める背景のひとつとなっています。2019年に改正入管法が施行され、在留資格に特定技能が追加されることになりました。特定技能制度とは、深刻化する人材不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組をおこなってもなお、人材を確保することが困難な状況にある産業上の特定分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる制度です。この在留資格ができたことによって、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、介護などの14分野が「特定産業分野」と認定され、専門的・技術的分野における幅広い業種で外国人が日本で働くことが可能となりました。
※特定技能で指定されている14分野
・建設業
・造船業・舶用工業
・自動車整備業
・航空業
・宿泊業
・介護
・ビルクリーニング
・農業
・漁業
・飲食料品製造業
・外食業
・素形材産業
・産業機械製造業
・電気電子情報産業
▼参考サイト:外務省「特定技能の対象14職種」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/ssw/jp/index.html
なお、1993年に制度化された在留資格「技能実習」と呼ばれる外国人技能実習制度もあります。
技能実習の目的は、日本の技術や知識を開発途上国に移転し、その国の経済発展を担う「人づくり」に協力することで、労働力の需給手段にすることはできません。一方で、在留資格「特定技能」の目的は、人手不足が深刻な産業分野の労働力を確保することになります。
▼関連記事:
在留資格「特定技能」とは?書類や特定産業分野14種類を徹底解説!
https://www.staffservice.co.jp/job/column/detail_137.html#section_2
外国人労働者が多い業種
厚生労働省が2020年に公表した「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、外国人労働者が携わる業種のなかで特に多いものは以下のような業種になります。

製造業の外国人労働者数が、非常に多いことがわかります。ただ地域によっても異なり、東京では宿泊業、飲食サービス業が21.3%でもっとも高くなっています。
また、労働者派遣・請負事業をおこなっている事業所に就労している外国人労働者数の状況を産業別にみると、サービス業が69.4%でもっとも多く、192,279人が働いています。
企業が外国人を労働力として考える際には、直接雇用だけでなく派遣スタッフとして労働力を求める方法もあります。次の見出し以降では、外国人に派遣スタッフとして働いてもらう場合のポイントについて説明します。
外国人の派遣スタッフを受け入れるメリット

外国人を派遣スタッフとして受け入れる、具体的なメリットについて4つ紹介します。
若年層の人出不足を補える
外国人派遣スタッフを確保することで人手不足を補うことができます。特に若年層の働き手が必要で、緊急に人材を欲しい事態が常態化している場合、外国人派遣スタッフに働いてもらえば慢性的な人手不足を解消することができるでしょう。
社内のグローバル化を促進できる
少子高齢化が進む日本においては、国内だけのビジネスでは企業の成長を見込めません。そこで、海外進出を図る際に必要なのが外国語に堪能な人材です。外国人派遣スタッフなら、出身国の言葉や文化に精通しているため、海外企業とやり取りでの活躍も期待できるかもしれません。日本語や英語、その他の外国語や文化に精通している外国人派遣スタッフは、社内のグローバル化の促進にひと役買ってくれる可能性もあります。
社内コミュニケーションの活発化
外国人派遣スタッフに働いてもらうためには、相手が外国人であることに配慮して交流する必要があります。メールやチャットだけで済ませず会話したり、日本語をわかるように話したり、こちらから話しかけてあげたりするなどコミュニケーションをおこなう場面が増えるでしょう。結果として、社内コミュニケーションの活発化を図ることができるでしょう。
特定技能や技能実習生と比較して検討できる
特定技能や技能実習生と比較して検討できることも、外国人派遣スタッフのメリットです。特定技能は開発途上国への技術移転を目的とした制度で、雇用時の外国人技能実習生の能力は問われないことがほとんどとなります。また、特定技能とは人手不足を補う即戦力としての在留資格です。どちらを受け入れるにしても、複雑な手続きを企業がおこなわなくてはならない大変さがあるでしょう。しかし、派遣スタッフなら複雑な手続きは外国人労働者が自分でおこなうため、各手続きのための労力を削減できるメリットがあります。
直接雇用と比較したメリット
外国人労働者を直接雇用した場合と派遣スタッフとして受け入れた場合とを比較すると、派遣スタッフなら前述したような「複雑な手続きが不要であること」がメリットとして挙げられます。企業が直接雇用する場合に必要な手続きは、派遣の場合には派遣スタッフが自分でおこなうため、手続きにかける労力を削減できるメリットがあります。
また、派遣会社が外国人スタッフと派遣先企業との間に入るため、自社募集と比べ業務に必要な日本語力を持っている外国人人材を確保しやすい点もメリットといえるでしょう。
外国人の派遣スタッフを受け入れる際の注意点

外国人を派遣スタッフとして受け入れることは、メリットばかりではありません。次のような注意点も押さえておきましょう。
業種によっては派遣が禁止されている
外国人労働者に限ったことではありませんが、業種によっては派遣が禁じられているものがあります。禁じられているのは以下の5業種です。
・港湾運送業務
・建設業務
・警備業務
・病院・診療所等における医療関連業務
・弁護士・社会保険労務士等の「士」業務
・人事労務管理関係業務の一部
外国人雇用状況の届出を提出
業務形態を問わず、ハローワークに外国人雇用状況の届出を提出することが義務とされています。
長期で働きたい人ばかりとは限らない
外国人労働者のなかには、最初から長期で働く意思がない人がいることに注意しましょう。たとえば、雇用前から母国への帰国日が決まっている、就労ビザの関係などの理由から正社員としての就職を望んでいない人もいます。期間限定の派遣スタッフとしての働き方は、こうした理由に合致するともいえるでしょう。要件を満たすことができれば、更新せずに契約満了で辞めてしまう可能性があります。長期で働ける人を集めたい場合には注意が必要です。
外国人の派遣スタッフに長く勤めてもらうためのポイント

外国人の派遣スタッフに、できるだけ長く勤めてもらうためのポイントを解説します。
社内規則やルールに外国の風習を取り入れる
外国人には独自の風習があります。もし、「自国の風習が理解されていない」と思われてしまうと、長く勤めてもらえない可能性もあります。外国人に長く勤務してもらうには、外国の風習を考慮した社内規則やルールを作成することをおすすめします。安全衛生分野のルールについても周知し、非常時にはどのようにしたら良いのか、対応策を考えておくことも必要です。
文化や習慣の違いを配慮する
海外では礼拝の時間があったり、食べることが許されない飲食物があったりします。外国人と日本人には宗教や文化、習慣の違いがあることを意識し、従業員が外国人派遣スタッフに配慮したコミュニケーションを取る必要があります。社内研修をおこない、外国人派遣スタッフにどう接したら良いかを従業員に学習してもらうのも良いでしょう。外国人派遣スタッフに対して歩み寄る姿勢が大切です。
また、外国人に日本語力があるからといっても、日本人従業員の方でも外国語を学ぶ姿勢を持つことが大切です。企業が従業員に対して外国語学習費用の支援をおこなったり、研修をおこなったりすることで、外国語を学ぶ意識が従業員のなかにも芽生えてきます。文化や習慣の違い、外国語の学習などは、特にグローバル展開を進めたい企業においては、外国人とのビジネス上のやり取りを学ぶ良い機会となるはずです。
自立できるよう生活をサポートする
外国人が自立できるよう生活をサポートすることも、外国人派遣スタッフに長く勤めてもらうコツです。基本的なサポートはもちろん派遣会社(派遣元企業)がおこないますが、派遣先企業としてもサポートする姿勢を持ちましょう。
具体的には、日本で日常生活を営む上で困ったことはないか、行政手続きはどうしたら良いかなど派遣先企業としても知識を蓄えておき、社内で情報発信することが挙げられます。サポートする姿勢を情報発信することで、社内に外国人労働者に対してサポートしたい気持ちも湧いてくるでしょう。その結果、協調的な雰囲気のなかで外国人派遣スタッフが働けるようになります。
まとめ
少子高齢化が進展し、生産年齢人口が減少するに伴い、日本では働き手がどんどん減ってきています。特に、人手不足となる業界では日本人に依存せず、外国人の労働力を求めることも必要でしょう。
外国人を派遣スタッフとして受け入れる場合、若年層の人手不足を補うことができたり、社内のグローバル化を推進できたりするなどのメリットがあります。ただしその際は、外国人労働者の習慣や文化を受け入れ、自立した生活を送れるようサポートする姿勢を持つことが必要です。外国人が異国での生活にストレスを感じることなく働ける環境を用意し、社内全体で外国人派遣スタッフに対してサポートする気持ちを持つことで、外国人派遣スタッフに長く勤めてもらうことができるでしょう。
《ライタープロフィール》
山崎英理夫
人事コンサルタントとして教育研修のプログラム開発、人事制度診断等を提供。また、企業人事として新卒・中途採用に従事し、人事制度構築や教育研修の企画・運用など幅広く活動。この経験を活かし、人材関連の執筆にも数多く取り組む。