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人と接し、自分を磨く。介護の仕事は「天職」60歳を過ぎても現場で活躍する介護福祉士の思いとは?

人と接し、自分を磨く。介護の仕事は「天職」60歳を過ぎても現場で活躍する介護福祉士の思いとは?

介護の現場で多くの高齢者を支える介護福祉士の馬場典子さん。60歳で定年を迎えた後も、介護の仕事を続けているのは、「これこそが自分の天職」と感じているからだそうです。

現在、老人介護保健施設働く馬場さんが、どのようにして介護の仕事に出会い、そのやりがいに目覚め、そして、定年を迎えた60歳以降、どうキャリアを継続させたのか。これまでの軌跡から思い、将来の展望までを伺いました。

シングルマザーとなり、自立することに。
ボランティアを通じて介護の仕事に目覚めた。

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― まず、馬場さんのこれまでのお仕事について教えてください。

私はもともと専業主婦で、離婚後、二人の娘を育てていくためにスーパーの鮮魚売り場でパート勤務を始めたんです。けれど、勤務日数も時間も不安定で、収入が安定しないことから、正社員を目指そうと。子どもにも胸を張れる仕事は何かと考える中、高齢化社会で求められている介護職に注目したんです。

― そこから介護の仕事をスタートされたんですか?

最初は自分にできるかどうか知りたくて、特別養護老人ホームのボランティアからスタートしたんですよ。週2~3回、パートの仕事を終えてから施設に向かって、食事や排泄、ベッドや車椅子への移乗などの介助アシスタントをしていました。半年間、仕事を学んだ後、施設から「うちで正社員として働いてみない?」と声をかけていただいたんです。最初は調理スタッフとして働きながら介護の資格を取得し、その後、介護職に就きました。16年間働いた後、「定年を迎える前に、施設の立ち上げを経験してみたい」と考え、新設される特別養護老人ホームに転職したんです。2年5ヶ月間、ユニットリーダーなどの経験を積んだ後、定年退職しました。

― ボランティアから正社員になられたのですね!

もともと人と接するのが好きだったんですが、ボランティア活動を通じて「介護の仕事は自分の天職かもしれない」と思うようになったんです。介護施設そのものに良くないイメージを抱く人もいますが、実際は「高齢者の生活を支援し、より快適に暮らしていけるようにするための場」なんです。だからこそ、介護において最も重要なものは、心を開いてもらうための“コミュニケーション”であり、いかに信頼関係を築くかが大事。例えば表情が出にくい認知症の方であっても、相手が求めるものを自分が理解できるようになると、次第に笑顔になってくれて、わかり合えたと感じる瞬間がやってくるものなんですよ。「この人なら安心できる」と思ってもらえるほど信頼される。そこにやりがいを感じましたね。

― わかり合えるって、すごいことですね。ボランティア時代から心がけていたことはあるんですか?

常に、ご利用者さんに対する尊敬の念を忘れず、かつ、自分の感情の起伏に左右されないよう、いつも同じ状態を保てるように心がけています。それぞれの個性までつかみ、どうして欲しいのかという要望をしっかり引き出していく。寄り添う気持ちで向き合う日々を続けていく中、「あなたって、いつも変わらずに優しい人ね」「あなたの笑顔を見るだけで元気になれる」という言葉をもらえるようになりました。それが嬉しくて、「ああ、この仕事、私に向いているんだ」と思えるようになったんです。

60歳で定年退職した後、派遣会社を活用。
おかげで希望を満たす職場に出合えた。

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― 現在は、どんなお仕事をされているんですか?

医療法人が運営する老人介護保健施設介護スタッフとして働いています。週5日、フルタイムのパート勤務で、食事や排泄、移譲、入浴などの介助をしています。

― このお仕事は自分で見つけられたんですか?

前職の施設からは「継続して働いて欲しい」と言われましたが、今までのように夜勤を続けて体に負担をかけるような働き方はしたくないなと思いました。だから、条件に合うところはないか探し、何社か面接もしてみたものの、すでに60歳という年齢でしたし、夜勤なしの条件で収入面にも折り合いがつくところとなると、なかなか見つかりませんでした。そこで、派遣会社のスタッフサービス・メディカルに登録することに決めたんです。

― 派遣という選択があったのですね。

娘がスタッフサービスに勤めていたので、「派遣で探したら?」とアドバイスしてくれました。派遣なら、年齢も条件もクリアできる仕事を紹介してもらえますし、すでに娘が働いている会社なら信頼できると思いました。

― どのような流れで、いまのお仕事につかれたのでしょう?

スタッフサービス・メディカルの担当さんに勤務条件や同じ施設で長く働きたい気持ちを伝えたところ、2つの施設を紹介していただきました。また職場の人間関係への不安を相談したところ、どちらが私に合うのか一緒に考えてくれました。それぞれの雰囲気や、派遣で働いている方が何人いるのかまで教えてくれて、安心できましたね。担当さんが、施設の中のことまでよく知っているからこそ、できたことだと思います。それに派遣の場合、同じ施設で3年以上働けないけれど、この会社では直接雇用への切り替えも支援していると聞き、「一カ所の職場に落ち着きたい私にとって、先々まで安心できる」と感じました。

― 60歳を超えて働き続けることに、不安はなかったですか?

担当さんが「何か困ったことがあったらいつでも何でも気軽に連絡してくださいね」と笑顔で言ってくれたので、とても心強かったです。働き始めてからも定期的に様子を見にきてくれて、手続き関連からタイムカードの使い方まで細かいところまで親身に教えてくれました。入所4ヶ月後、施設の事務長から「直接雇用で働いてみないか」と声をかけていただきましたが、この時も担当さんは相談に乗ってくれました。職場の雰囲気は自分に合っていると思ったものの、どうすればいいのかわからなくて。担当さんが親身になって、私にとってベストのタイミングを教えてくれたおかげで、安心して直接雇用に切り替えることができました。

働き続けているからこそ、
趣味も生活も楽しめる。
何より、自分を磨き、人間的に成長できる!

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― 「定年後も働き続けるのは大変じゃないか」と思う人もいますが、馬場さんにとっての働くモチベーションは何でしょうか?

私は定年直前の時期から「まだまだ働きたい!」と思っていました。体は至って健康でしたし、生活のためにもなるし、お金があってこそ自分の趣味も楽しめますでしょ? 友達と旅行に出かけたり、愛犬とのんびり過ごす時間も楽しみたいなと。それに、介護の仕事は自分の天職だと感じていたので、続けられる限りは続けたかったんですよね。

― いまの仕事のやりがいはいかがですか?

やはり、「ご利用者さんと自分の気持ちが一つになった」という瞬間に大きなやりがいを実感します。つい最近、歩行器を使っているご利用者さんの具合が悪くなったことがありました。車椅子に移してベッドまで運ぶ際、「いつも使っている歩行器が近くにないと不安になってしまうかも」と考え、歩行器も一緒に持っていくことにしたんです。その方は、目が覚めた時、やはり歩行器を探したそうで、「馬場さん、私を運ぶだけでも大変だったはずなのに、ちゃんと持ってきてくれたんだね。ありがとう」と言ってくださって、ご家族の方からも感謝の言葉をいただきました。ちょっとしたことでも信頼が生まれると喜びを感じますし、そんな瞬間には、私こそ元気をもらっていると感じます。

― そこまで考えてこそなんですね。嬉しいエピソード、他にも聞かせていただけますか?

お休みした翌日、リハビリの先生から「みんなが『馬場さんはいないのか』と言うから困った」と言われたこともあります。私を信頼し、必要としてくれる方がたくさんいることが本当に嬉しかったですね。それに、ご利用者さんと信頼を築けば、「困った時はお互い様」の心も生まれるんです。例えば、エプロンを畳む作業が間に合わない時にも、「お手伝いしようか? 馬場さんのお手伝いを嫌だなんて言うわけないじゃない!」と言ってくれたり、助けてもらえることもたくさんあるんですよ(笑)。

― そこまでの信頼関係、どうすれば築けるものなんでしょうか。

相手の思いを察し、理解し、そこに寄り添うことが大事ですね。私はどんな時もご利用者さんにとって一番快適なことは何なのかを考えています。また、自分自身の人間力もそれによって磨かれると感じています。介護は生活に密着したものですし、ご利用者さんも十人十色。いろんな方と接していく中で、自分自身もより深い人間になっていくことを実感しています。母子家庭でも二人の子どもを育て上げることができたのは介護の仕事があったから。人と接することが大好きだった自分が介護という天職に出会えたことに心から感謝しています。

― 介護の仕事は「自分磨き」でもあるんですね!

そうですね。常に成長できると感じますし、ご利用者さん一人ひとりと、家族のように絆を深めていけるのは、この仕事ならではの喜びだと思います。もっと勉強し、自分を磨いていきたいと思いますし、常に新しい世界にチャレンジしていきたいです!

― 将来の展望や今後の目標はありますか?

体力的に介助が難しくなることも視野に入れ、認知症ケア専門士の資格取得を目指しています。今の時代、60代の方でもPCやスマートフォンを使いこなしていますが、将来、そうした方々が認知症になった場合、これまでとはまた違うレベルのコミュニケーションが必要になるのではないかと考えています。予測のつかないハイレベルな問題を解決できるようになるため、今から学べることを学んでおこうと。いずれは、認知症専門の小規模なグループホームで働きたいと思いますし、その時にはまたスタッフサービスさんのお世話になろうと考えています。

― 最後に、ご自身の仕事観をお教えください。

私は、健康なうちはずっと働き続けたいと思っています。仕事って、やっぱり自分を磨くことであり、人間的に成長していくために必要なもの。そして、どんな現場でも、自分自身の物の見方や取り組み方で、得られるものは大きく変えられる。自分の気持ち次第で、より深く、より大きく成長できるので、いい方向へ進み続けるために、プラスの思いを持って積み重ねていこうと思います。

インタビューを終えて

シングルマザーとして子どもを育てていくために、「天職」と言える介護の仕事に出合った馬場さん。人の心に寄り添いたいという思いを持ち、常に前向きなチャレンジを続けている彼女は、60歳を超えた今もイキイキと輝いていました。

働き続けていくことにはお金だけではない深い意義があり、また、いくつになってもキャリアを続けながら自分の可能性を広げていくことはできる。そう実感できるお話をいただきました。